第7章 なんとなくの正体
俺にはその返答が不可解だった。聞くなり父は機嫌を損ねて素足のまま庭に下りてきた。
額には血管が浮かび、今にも憤激しそうだ。
「お前!大したことのない雑魚の隊員のくせに、俺に嘘をつくのか!」
父は月城に掴みかかろうとしたので、俺がその間に入った。
「父上、落ち着いてください。月城にも説明がつかぬことかもしれません。」
「お前は意気揚々と継子を取りながら弟子の事を何も知らんのか。いいか、師範にそれを話せぬというならその時点でお前たちの関係は師弟以下だ。そうだろう。どうせお前も嘘をつかれているのだろう?本当は見えているのに、だ!嘘で誤魔化す弟子など取るに足らん!さっさと継子など辞めてしまえ!」
月城は怯え、木刀を握りしめたまま俯いていた。手がずっと震えているのがわかる。
「お前もだ杏寿郎!お前は柱になったが力不足だ!何人も鬼を絶滅させることは敵わんのだから、お前もさっさと剣士を辞めろ!」
「お言葉ですが、父上」
「煩い!」
父の裏拳が頬に飛んできた。さすがに元柱だっただけある。俺は足がふらついたが踏ん張った。再び父を見るが、今度は胸ぐらを掴まれた。拳が飛んでくる。
「お止めください!お父上様!」
月城が声を震わせながらも俺と父の間に入ってきた。そのせいで父の拳は彼女の頭に当たった。手加減されたとは思うが、吹っ飛んでしまいそうだったので抱き止めた。
俺は、父を睨んでいた。ここまでの態度をとったことはこれまで無かったかもしれない。
「なんだ、その目は…」
「例え父上であっても、俺の弟子に手を上げることは決して許しません!」
月城に拳が当たってしまい父も困惑はしていた。間違いだっただけだ。そう言い聞かせた。
「勝手にしろ!!」
父は再び家の中へ戻って行った。
俺は腕の中で朦朧としている月城の様子を見た。目眩を起こしている。とにかくその場に座らせた。
「申し訳ございませんでした…」
俺が声をかけるより早く月城は謝罪した。自分の発した一言で俺と父を争わせてしまったと悔やんでいる。
「父上が稽古の途中に話しかけてくるなど、今までなかった。きっと月城の才能を見抜いていたのだろう。気にするな!」
ただ、父の言った彼女が見ているものについては、やはり引っかかる。