第7章 なんとなくの正体
その後も月城は攻撃を止めることなく、頸を狙ってくる。
だがまだまだ。俺は月城の道着の襟元を掴んだ。
「模擬戦だぞ!全身を使え!」
そのまま月城を地面目掛けて投げ飛ばした。咄嗟の事に驚いてはいたが、受け身はとれたようだ。すぐに体勢を整えて木刀を構える。と、彼女は動きを止めた。何かを見ているのか。こうなると俺の動きは先を読まれる。月城の読む先の動きをしなければ。
すぐに動いたのは彼女の方だった。真っ直ぐ向かってくるかと思えば、突然止まって後退する。これは迎撃を読まれた。ならば、これはどうだ。俺は横一閃に続き、足払い、蹴り上げ、更に下から刀を振り上げ、炎の呼吸 肆ノ型を浴びせる。殆ど避けられたが、流石に最後は木刀を使って防御の姿勢をとった。俺も本気故に防御しようともかなり押されていた。月城の柔らかな手では痺れているだろうな。だが以前よりずっといいぞ!力もついてきた。
「月城!俺に当ててもいい!狙ってみろ!」
呼びかけると、月城は大きく呼吸した。そして素早く間合いを詰めてきた。木刀の持ち方が変わった。すると俺の頸目掛けて鋭い突きの連続。木刀で受けきってから薙ぎ払う。後退したと思えばそこに姿がない。下がってすぐまた直進し、すぐ下にいた。俺の胴を狙う気だな。木刀が当たる直前に上方へ飛び躱した。
「いいぞ!技の速さも頗る上がったな!」
もう一度間合いをとって木刀を構えた時、縁側を通る父の姿が目に入った。珍しい、ここを通ることは殆どないのだが。
「おい!お前!」
父の声に俺も月城も動きを止めた。
「父上!どういたしましたか!」
俺は縁側の方へ行こうとするが、違う!お前だ!と父は月城を指差した。
月城はきょとんとした顔で父の方へ直る。
「はい。何でしょうか。」
「お前…」
父は、酒壺から直接酒を口に含んで、着流しの袖で口を拭いた。
「何を見て刀を振っている?」
父の言葉に月城は顔色を変えて固まった。木刀を持つ手が微かに震えている。怯えているのか。しかしこればかりは俺にも謎で答えられない。
俺は月城の方へ歩みよって、父に聞こえないように小さな声で呼びかけた。
彼女は肩を一度大きく震わせた。
「な…なにも、見えてなどおりません。」