第7章 なんとなくの正体
「そうしたら千寿郎さん、まるで意を決したように私にこう言ったのです。」
(あの、月城さん。もしもお許しいただければなのですが…あ、姉上とお呼びしても、いいでしょうか。)
「ほう、千寿郎がそんなことを…。それで月城はなんと?」
月城は更に目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「そんなこと!いいに決まっているではありませんか!!」
月城はいつもより大きな声が出たことを恥じらって座り直したが、さぞ嬉しかったのだろう、思い出して涙まで流していた。月城は家族を亡くして一人きりだから、まるで家族の一員のように頼られることは特別だっただろう。たとえそれが他人であったとしても。
「ただ、私と千寿郎さんは良いのですが、杏寿郎さんが変な誤解を受けるのではと案じております。」
「ん?俺がどうして?」
「千寿郎さんが私を姉上とお呼びになったら、普通は私が嫁入りした、という風になるではないですか。」
あぁ、なるほど!俺が嫁をもらったと勘違いされるのではと案じているのだな!
「ははは!そんな些末なことを気にするな!誤解されたなら説明すればいい!」
「そうなのですけど…。まあ、杏寿郎さんが気にしないと言ってくださるなら。」
月城は困ったように眉尻を下げて微笑んでいた。
俺は千寿郎が君を姉と慕っても何も問題はないぞ!そんなことで妬むような兄ではないしな。むしろ俺以外にも千寿郎を気にかけ、同じだけの愛情を注げる人がいることを俺も嬉しく思う。
「さぁ、休憩は終わりだ!俺と模擬戦をするぞ、月城!」
月城は終わりと聞いて慌てて飲んだ茶を吹きこぼしそうになっていた。
「もぎ…ゴホっ!模擬戦ですか…頑張ります。」
「うむ!ではそこに直れ!」
「はい!」
月城は木刀を持ち、呼吸を整えなが構えた。いいぞ。前よりずっとよくなった。
「実戦だと思って本気で来い。俺も本気で行くぞ。」
月城は黙って頷いた。彼女は集中するとほとんど話さなくなる。
「では始め!」
号令の直後、月城は真っ直ぐにこちらに突進してきた。素早い!全集中の呼吸で下半身の筋肉をうまく使ったな。しかしこちらも本気。彼女の振り下ろした刀を躱し、刀を払うつもりで下から振り上げるが、うまく受け流された。