第1章 異人の隊士
「お邪魔いたします。」
門扉をくぐらせる。と、彼女の肩には梟がとまっていた。
体は鴉ほどの大きさだが白と茶の羽毛の梟だ。
「私の鎹は鴉ではなく梟なのです。」
物珍しそうに見てしまっていたらしい。彼女の方から説明してくれた。
梟は低く一鳴きした。それから屋根の上まで要と共に羽ばたいていった。
「羽ばたきが静かだ。梟は暗闇もよく見えると聞く。いい相棒だな。」
「はい。」
月城は青い眸を細めて微笑んだ。だがなぜだか目の奥は冷たく感じる。
玄関へ招きいれ、俺は先に草履を脱いで上がった。
彼女は草履ではなく茶色い革靴を履いていた。それも靴と脚絆が一つになったような形のものだ。異人の者らしい!これがハイカラか。
紐を解いて靴を脱いで上がり、また振り返って靴の踵を揃えていた。
「靴はここでよろしいですか?」
「うむ!だがそれを履いて稽古を受けるなら縁側に置こう。」
月城は靴を手に持って立ち上がった。
やはり上背がある。女子でこれほどの背丈は見たことがない。着ている隊服の下は袴で足首がすっかり出ている。
丈が合っていないのではないだろうか。
縁側へ行き俺たちは履物を置いた。そのまま道場へ行くところ、千寿郎が音をききつけたのかやってきた。
「あら、小さな炎柱様…」
月城がポツリと呟くように言った。
「兄上、この方が?」
「ああ。稽古をつけてやることになった癸の隊士だ。」
彼女の出立ちの珍しさに千寿郎は少し驚いていたが、月城は目線を合わせるように跪いた。
「初めまして。月城リアネと申します。本日はお世話になります。」
月城の声色は俺と話すときとはまるで違っていた。とても優しく、その目から冷たさも感じない。
千寿郎も緊張こそしているものの怖がってはいなかった。
「初めまして。弟の千寿郎です。私も兄に稽古をつけてもらっていますのでご一緒させていただくかもしれません。」
「左様でございますか。それはとても楽しみです。よろしくお願い申します。」
「はい!」
千寿郎が落ち着いてきている。この二人は大丈夫そうだ。
月城は持っていた鞄を開けて、小さく華やかな色の包を取り出した。中身は分からんが菓子だろう。
それを千寿郎の手を取ってそっと乗せた。