第6章 約束
「お風呂の準備ができていますよ。たまには兄弟水入らずで入られたらどうでしょう?」
杏寿郎さんと千寿郎さんが顔を見合わせた。
「そうだな!入るか千寿郎!」
「あ…はい!」
これには杏寿郎さんも嬉しそう。お二人は着替えを取りに廊下へ出られた。背中を流しますと、千寿郎さんも楽しげに話していた。
私はその間に自室へ戻り、布団を引いた。それから家から持ってきたポプリの硝子容器を出した。振って蓋を開けると、よい香りが広がり、とても落ち着く。そして読みかけの本を開いて二人が上がるのを待った。
少しして私の部屋に来たのは千寿郎さんだった。もっとゆっくりでもいいのに、あの兄上様はお風呂までせっかちなのでしょうか。
「月城さん、お風呂どうぞ。」
「はーい。」
本に栞を挟み枕元へ置いて、行灯を消し、寝間着を持って部屋を出た。
千寿郎さんはお風呂でよく温まったのか頬が赤くなっていた。
「兄上様とはゆっくりできましたか?」
「はい!湯船に浸かりながらいろいろ話せました。ありがとうございます。」
「それなら良かったです。さぁ、体が冷えぬうちに休むのですよ?」
「はい、おやすみなさい月城さん。」
「おやすみなさい、千寿郎さん。」
千寿郎さんは私には小さくお辞儀して、お部屋へ向かわれた。その姿が末の弟と重なった気がした。
私は湯船に浸かりながらも、昔の事を思い出した。かわいい弟たちのこと。眠れない夜は三人一緒に眠ったりもした。それがもう無い。私には無い。亡くしてしまったのだから…。もしも会えたならどんなにいいだろう。
本当は、杏寿郎さんが羨ましい。とても、とても。家があり、父上様がいて、千寿郎さんもいる。だけど人を羨んでも仕方がない。
私は目にためた涙を、顔を洗うことで全て流した。
風呂から上がり、寝間着に着替えて部屋へ戻る途中に廊下で杏寿郎さんに会ったが。
「!!!な!なんだ!その格好は!」
何故かとても驚かれていて、しかもすぐに顔を背け、こちらを見ないようにしていた。その反応に驚き、自分の格好を見直すも特段いつもと変わりはない。
「何か、おかしいですか?」
「あられもないだろう!膝下が透けているぞ!」
ああ!そういうことですか。確かに膝から下は透けていて、きっと肌着のまま歩いているように見えたのでしょうね。