第6章 約束
この空気を変えたい気持ちは私も同じだった。
「簡単と思っていたのですが、集中を維持するというのは結構難しいですね。」
「うむ!やろうと思ってすぐできるものではない!」
「杏寿郎さん、微動だにされていませんでしたものね。いつも思っていますが尊敬します。」
「いや、だが!…ふっ…!」
杏寿郎さんは珍しく笑って吹き出した。
「月城が妙な声を上げたときは、さすがに我慢するのがきつかったな!」
あの最初の警策をいただいたときでしょうかね、そうですよねきっと。
「ふふっ…」
すると千寿郎さんまで堪えるように笑った。
「すみません、実は俺も…。必死で堪えました。」
「本当にお恥ずかしい。もう忘れてください。」
「思い出したからには無理だな!あの、ふぐっ!は!」
「だ…ふふっ!だめですよ兄上!よくないです!」
もう嫌、穴があったら入りたい。家につくまでずっとこの話で笑われた。普段ならこの話はお終いだ!とすぐ完結するのに。
でも千寿郎さんが笑顔なら何でも良い。このままずっと笑顔でいられたなら。
煉獄家に着いて昼餉をとった後、私と千寿郎さんはお庭で一緒に木刀の素振りをした。互いの癖を指摘し合ったりして形が崩れないように気をつけながら行った。杏寿郎さんは他の隊士や柱の方からのお手紙に返事をすると、暫くお部屋に籠もっていたが、早々に済ませてお庭に来られた。
「どうだ、二人共!捗っているか!」
「はい兄上!」
「千寿郎さんからいろいろ教わっておりました。」
とても有意義な、というと杏寿郎さんとの時間はそうではないと聞こえるかもしれませんが、千寿郎さんとの時間は私にとっては鍛錬であろうとも癒やしが含まれた。
「そうか!どれ、千寿郎から見てやろう。」
「はい!」
いつもは優しいお顔の千寿郎さんも、稽古となると凛々しくなり真剣な表情で木刀を振り下ろした。その間は私も少し離れた所で素振りをした。兄弟お二人の時間を大切にしてほしい。いつもそこにあるものは当たり前ではないことを、私はよく知っている。
その後も、杏寿郎さんは任務の連絡もなく、夕餉も共にした。今回は長らくお世話になるので、食事の仕度を含め家事は私がやると申し出たが、千寿郎さんが頑なに遠慮なさるので結局二人でやることになった。