第6章 約束
千寿郎さんは嬉しそうに一つ手にとって一口噛じった。小さいので丸ごとでも入るでしょうに、大切そうに少しだけ。
「…!!これは!」
「どうですか?」
「お、美味しいです!初めて食べました!!あ、兄上ー!!兄上ー!!」
千寿郎さんは興奮冷めやらぬままに兄上様を探しに廊下を走って行った。それに後ろから着いていくと、杏寿郎さんが座敷から出てこられた。
「どうした?」
興奮気味な千寿郎さんの姿に杏寿郎さんは笑っていましたが、手に持ったブリキの箱を見て正体はこれだと把握したでしょうね。
「月城さんにいただきました!チョコレイトです!美味しいので兄上もどうぞ!!」
「ほう。珍しいな。ありがとう月城!」
杏寿郎さんは差し出されたブリキの箱と中身のチョコレイトをよくご覧になっていた。
「西洋のものだそうですよ。」
「うむ!異国の雰囲気がでているな!」
杏寿郎さんはチョコレイトを一粒取って一口で食べた。
「うまい!」
いつもの大きな声が廊下に響いた。
「香りも味も独特だが、苦味と甘味がほどよい!」
「お口に合いまして良かったです。ショコラティエの方に伝えておきますね。」
「しょこれいてぃえ?」
千寿郎さんは下を噛みそうになりながら繰り返された。
「チョコレイトを専門に扱う菓子職人です。実はその方より、日本でチョコレイトを売りたいので日本人好みの味になるように試食を頼まれているのですよ。」
ちなみにこれが三回目である。
最初の頃は同じ借家に住む方に協力を頼んだものの、その独特な風味と強い苦味で全く受け付けてもらえなかった。二回目は近所の人に食べていただいたが、もう一度食べたいとは思ってもらえず。
「月城はそんなことまで頼まれているのか。やり取りは手紙か?」
「はい。知り合いの船乗りに届けてもらっています。」
「や、やはり外国語で書くのですか?」
千寿郎さんはとても興味を示されていた。
「はい。それで筆ではなくてペンで書くのですよ。きちんと蝋で封もします。」
今度封蝋を見せてさしあげましょう。
「すごいですね月城さん。鬼殺隊で剣士をしているだけでなく、外国の方とも交流があるなんて…!」
「千寿郎さんもできますよ?今度一緒に貿易船を見に行きますか?」