第6章 約束
皆さんに気を遣わせてしまった。私はお風呂場へ向かい、戸を開けると、千寿郎さんが湯に手を入れて温度を確かめているところだった。
「あぁ月城さん!良かった、おはようございます。」
千寿郎さんはどこか安心された表情だった。心配をかけたのかもしれない。
「おはようございます、千寿郎さん。すみません、寝坊してしまいました。」
「お疲れだったのですね。失礼ながら声をかけにお部屋に入らせていただきましたが、月城さん寝息も小さくて、少しも動かないので…このまま起きなかったらどうしようかと…」
これほど心配をかけてしまうなんて…
私は千寿郎さんの前で膝をついて目線を合わせ、小さな手を握った。
「御心配をおかけして申し訳ございません。いつ起きるか分からない私のために、千寿郎さんはいろいろ準備をして待っていてくださったのですね。ありがとうございます。」
千寿郎さんの小さな手は私の手を握り返した。
「いえ。俺にできることはこのぐらいですから。」
どうにか笑顔作る姿が健気だった。すぐにでも抱きしめたいけれど、千寿郎さんももう小さな子どもではないし、恥ずかしいかもしれないので思い留めた。
「私にはとても有難いことです。お風呂に入ってもよろしいですか?」
「はい!丁度良い湯加減と思います。」
「ありがとうございます。」
千寿郎さんから手拭いを受け取り、戸が締まったらすぐに道着を脱いで、入った。生き返る思いでした。
お風呂も早々に済ませ、すぐ朝餉をいただき、急いで、でも味わって食べた。そんなに慌てることはないと杏寿郎さんは言いますが、寝坊助の私は稽古に励み強くなる以外にお返しできるものは無かった。
食器を片付けて、隊服を洗い、布団も干してよく叩いた。それから鞄に入れていた土産物を取り出して千寿郎さんのところへ。
「千寿郎さん、これをどうぞ。」
本二冊分ほどの大きさのブリキの箱で、蓋と側面に鮮やかな色で絵が描かれている。
「わぁ、綺麗ですね。なんですか?」
「西洋のチョコレイトですよ。少し苦味がありますがほんのり甘く美味しいのです。」
千寿郎さんは蓋を開けるなり感嘆の声をあげていた。カカオ豆と甘い香りが漂う。チョコレイトの一つ一つも装飾が施されていた。
「こんな高級なもの、良いのですか!?」
「ええもちろんです。」