第5章 造船所の鬼
「すまない!もっと壊れてしまった!!」
なんと繊細な刀だ。俺は月城にそれを返した。
「いえ、既に切れる状態では無かったですし。刀は壊れたらどうすれば良いですか?」
「鎹鴉で担当の刀鍛冶に頼めばいい。そうすれば新しいものを打ち直してもらえる。」
月城は早速、梟を飛ばした。刀が出来るまでは凡そ十日。その間は任務に出られないので鍛錬だな。話をしている間に彼女の家の前についた。
「疲れただろう。今日はゆっくり休むといい!」
「ありがとうございます。」
「明日から刀ができるまでは我が家で稽古をするぞ!朝から始めるからな!」
「朝…」
月城の目が完全に逝ってしまった。朝一番の列車で出てくる必要があるからな。通いは厳しいと思うんだがな。
「通いが大変なら泊まり込みでも構わんぞ。その方が休むときに休めるだろう。千寿郎も喜ぶしな!」
千寿郎で釣ったわけではないが、それを聞いて月城の表情は少し明るくなった。
「では、お言葉に甘えさせていただきたいと思います。」
彼女は面倒見が良いから来てくれるのは有難い。
「よし、そうと決まれば準備を急げ!」
「え?今から行くのですか?」
「そうだ!」
「ですが、…列車はもう出ていないですよ?」
「うむ!走って帰るぞ!!」
「え…?駒沢村まで…?」
「これも鍛錬だ!」
月城は何も言わず家に入っていった。女性は準備に時間がかかると思ったが彼女は十分程度で戻ってきた。荷物は年季の入った革製の大きめな鞄一つのみ。俺が持つつもりだったが軽いからと断られた。大切なものなのかもしれない。
「さっきも言ったが鍛錬のつもりで走る!呼吸を意識しつつ、しっかりついてこい!」
「…はい。」
始めはゆっくりと駆け出す。呼吸を整え足に集中。少しずつ速度を上げる。人通りの無い真っ直ぐな道はどこまでも加速できるが、月城とは少し離れてしまった。
「月城ー!そんな走りではつく頃には朝になってしまうぞ!もっと頑張れ!」
返事は聞こえなかったが一生懸命やっているからよしとしよう。俺は彼女の様子を時々確認しながら止まることなく走り続け、どうにか夜が明ける前には着いた。いい汗をかいた!
月城も任務の後だがよくついてこられた!