第5章 造船所の鬼
「謙遜する必要はない!月城の提案通りに事を運んだまで!まさかクレーンごとぶつかっていくとは思わなかったがな!」
「あれは操縦したら思ったより動きが遅かったので咄嗟に…」
隠は聞きながら崩れたクレーンを見て絶句する。
「そ、それより!火傷を負いましたよね?大丈夫なのですか?」
月城は慌てて話題を変えた。俺の掌は少し焼けただれていた。このぐらいは何ということはない。
「うむ、大事はない!」
そうは言っても隠は大声で医療班を呼びつけた。本当に何も問題ないのだが、あれよあれよという間に軟膏と包帯で治療を施してくれた。月城もしつこく怪我がないか聞かれていたが、大丈夫だと断っていた。無傷で良かった。
それからいつものように、後処理は彼等に任せて俺たちはその場を後にした。造船所の入り口では怯えたあの作業員の若者が塀に隠れるようにしていた。
「もう大丈夫だ。」
すれ違いざまに伝えて、肩に手を置いた。
背後からはお礼の言葉が、何度と聞こえた。
港を過ぎ、暗く静かになった屋台の通りを過ぎた。少し疲れたな。
「月城、今日は本当によくやったな。」
「杏寿郎さんが信じてくださったおかげです。」
「信じるのは当たり前だろう。君は俺の継子なのだから!」
「…。」
会話が止まれば静かだ。月城が黙り込んだ理由は分かっている。自信がないのだ。そんなもの俺に言わせれば大した問題ではないのだが、押し付けるのは逆効果かもしれないな。
「私にはあの硬い鉄に傷もつけられなかった…。」
「あれを切るには熟練の技が必要だ。別に君だけができないわけではない。」
「しかも刃が歪んでしまいました…。」
「なんだと!?見せてみなさい。」
月城から刀を受け取る。こうして見るのは初めてだが変わった刀だ。刃が硝子で出来ている。先端の刃が光熱で峰ごと歪み、亀裂が入っていた。
「よもや…。この刀でよくこれまでやってきたな。」
「これを打った方は硝子職人から刀鍛冶に転職されたそうで、どうしても硝子と鋼を合わせて新しい形のものを生み出したかったのだそうです。」
「ほう。」
聞きながら亀裂の入った剣先に触れると、途端に硝子が砕けてしまった。
「…。」
「あら…。」