第5章 造船所の鬼
「俺の身体はここにあるのが全てじゃないぞ?向こうの高炉へ行ったあいつは今頃どうしただろうな?」
「心配には及ばない!彼女は必ずやってみせる!」
「そうかい?あれでも?」
黒い鬼の視線の先には巨大なクレーンがあった。その先端にいるのは月城だ。クレーンの下は溶けた鉄が纏わりついていて、骨組みを溶かしている。
だがきっと大丈夫だ。あのクレーンを奴にぶつけるのが月城の提案。今のところ問題はない。俺は刀を構えなおした。
「お前の相手はこっちだ!」
炎の呼吸 伍ノ型 炎虎
咆哮する虎の如く斬撃が黒い鬼に向かうが、当たらずに高炉へとぶつかった。高炉の一部は砕けて、中に溜まった鉄が熱で光っているかのように見える。これで良い。黒い鬼の視線が逸れた時、月城は倒れるクレーンごとやってきて、振り子のようになったフックを黒い鬼の巨体にうまく当てて突き飛ばした。黒い鬼は声をあげる暇もなく高炉へ落ちていった。倒れたクレーンの重さでこの足場も崩れる。
俺はフックに捕まったままの月城を回収して、下へ降りた。崩れた金属の柱や棒で辺りは酷い有り様だ。
「よし!もう少しだ!」
「はい、こちらへ!」
月城に案内されたのは高炉の真下。溶けた鉄が流れ出ていた。ここに奴の身体が溶け出したところを狙う。
「ここです!」
月城は魚を銛で突くように、刀で溶けた鉄を突いて一部を取り出した。そこに水をかけて固める。水は製鉄所内で探してきたようだ。
「杏寿郎さん、お願いします。」
俺はこの小さな鉄を慎重に細切れにした。
小さくなった鉄が焼けて崩れていった。鬼の首を切った時と同じように。
俺たちは自然と顔を見合わせた。
「任務完了だ!」
「はい、お疲れ様です。」
月城は安心したように微笑んだ。今日もよく頑張ったな。
「しかし、後始末はかかりそうだな。」
殆ど崩れ落ちた通路。壊れた高炉。折れたクレーン。これはやり過ぎたな。修理費がかかりそうだ。要が呼んだ隠らがこの有様を見て驚いていた。
「煉獄さん!大丈夫ですか!」
隠の一人が近づいてきて言った。
「大丈夫だ!今日は俺は何もしていない。彼女の手柄だ!」
隠は驚き月城を見た。
「とんでもない!杏寿郎さんが誘導してくださったからです。ありがとうございます。」