第5章 造船所の鬼
なんとか避けたが、あれに触れると火傷をするだろう。溶け出した鬼は床を這って向かってくる。首はどこだ。
水の呼吸 捌ノ型 滝壺
月城が動いた。溶けた鬼が技を浴びてまた黒く固まり、元の形に戻った。
「相性が悪かったなあ。あいつが切ればオレは溶ける。お前が切れば固まる。あとは体力が無くなったところを喰うだけ。」
このまま消耗するわけにはいかないのは確か。だが月城の様子が先程とは違う。いつもの彼女だ。何か見えたのか。
月城は鬼に向かって刀を振るが、火花が散るだけで奴に傷はつけられなかった。折れなかっただけまだ良いほうだ。あれを切るにはかなりの鍛錬がいる。
月城はそのまま俺に向かって走ってきた。
「溶けた瞬間に首が見えました。自在に移動していますが、恐らく硬化した時は変わらないものかと!」
「承知した!」
「提案が…」
「ん?」
月城は耳元で単的に伝えると、崩れた足場を越えて行った。
「相分かった!!」
黒い鬼は手近な俺に向かってくる。月城の作戦はこうだ。まずは指定の場所へ十分に引き付ける。俺は高く飛び、残った足場に降りた。
「なんだ、逃げて時間稼ぎか?」
黒い鬼は壁を這って登ってくる。そうだ、いいぞ。俺は作戦通りに足場を翔ける。崩れて無くなったところは飛び越えた。黒い鬼は最初は笑っていたが、だんだん痺れを切らし、速度を増した。それでも身体が重いのか、硬化している時は動きが鈍い。俺は指定された高炉に着いたが、月城の準備に時間がかかっているな。俺だけでもできれば…。
黒い鬼は急に立ち止まった俺に警戒してこれ以上近づいてこない。
最悪、足止めできればいい。また黒い針が伸びてきた。
炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
薙ぎ払うと同時に切った鉄が溶けて飛び散り、頬や隊服についた。服は燃えだしたので手で叩いて消した。顔と掌が熱い。あまり近距離で戦うのは危険かもしれん。
黒い鬼は壁に張りついたまま、身体を赤く染めて発火させた。
ゆっくりと移動してこちらの様子を伺っている。通った所は焼け焦げた痕がついていた。恐らく高温の状態。無闇に近づけば触れる前にこちらが燃えてしまう。
「お前、さっきの女を助けなくていいのか?」
何を言っているんだ。