第5章 造船所の鬼
黒い針は真っ直ぐ伸びてくるが、距離をとれば避けられた。
「クソぉ、勘のいい鬼狩りがきたな…。」
崩れた足場の間から何かが出てきた。まるで虫が這っているかのような動きだが人のような四肢がある巨体。身体は黒く目などはないが大きく裂けた口がある。と思えば、先程切った鬼の目が奴の顔に貼り付いた。
気味が悪いな。月城は不気味さから口を覆っている。
「まぁいいか。お前らも喰ってオレはまた十二鬼月に入れてもらうのだ!」
そうか。先程の鬼は影武者のつもりか。あれ如きに満足して帰ると思われたのか、心外だ!
俺は炎刀を黒い鬼に向けた。
「俺たちを喰うことはできん、黄泉へ逝くのはお前だ!」
鬼は腹を立てているのか、唸り出し、体から無数の黒い針を出した。それを刀をで薙ぎ払った。金属同士がぶつかる音だ。火花が散った。鉄か。ということは、あの体も鉄でできているのか。いくら刀の軌道が正確な月城でも鉄を切るのは厳しそうだな。すぐ終わらせよう。
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
黒い鬼の首を刀が貫通した。だが手応えがない。
首は鉄の塊が落ちるようにゴトンと音を立てた地を転がったが、やがて溶け出して消えた。
首に見えてあれは奴の首ではなかったのだ。どこへ行った?
「月城!」
刀を持ったまま固まる月城を呼ぶと、一瞬身体を震わせた。
「大丈夫だ!相手をよく見ろ!君なら見えるはずだ!」
俺の目よりなにより君のもつ勘は優れている。集中しろ。神経を研ぎ澄ませ。
「だめです…。」
月城は辺りを見渡すが、声が震えている。恐れが大きくなっている。
黒い鬼は影のようになって床を移動し月城に向かった。まずい、気がつていない。また黒い針が飛び出す直前、俺は再び月城を抱えて避けた。いつになく怯えている。
「月城、呼吸を忘れるな。落ち着いて、集中しろ。」
「でも、何も見えないです…動きが読めません…。」
「見えずとも君のもつ勘は絶対と言っていいほど正確だ。信じろ。」
「…。」
それでも月城は震えたままだ。これでは狙われる。
黒い鬼が今度は頭上から飛びかかってきた。
炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!
頭上に大きく刀を振ると、鬼の色が赤く変わり溶け出した。