第5章 造船所の鬼
しかも決まって、夜に残って作業していた者だけが被害にあったという。そのため他の作業員はここのところ残業はしないで帰っていくのだそうだ。
「それで、貴方はなぜここに残っていたのですか?」
月城がすかさず問う。
「仲間があんな死に方したんだ。許せないだろう…だから誰がやったか暴いて二度とこんなことさせないようにしてやるんだ…!」
なるほど。気持ちはわかるが、この若者には荷が重い。
俺は彼の肩に手を置いた。
「俺はそういう悪鬼を倒すのが責務だ。任せてくれ。」
「へ?猫を探しにきただけなんじゃ…」
と、遠くで何か重く硬いものが落ちる音がした。若者は驚いて小さく声を上げていた。
「月城、その若者を安全なところへ。」
「はい。さぁ、行きましょう。」
戸惑う若者の腕を引いて、月城は速やかに製鉄所を出た。俺はもう一度日輪刀を抜き、音のする方へ行く。
物音は聞こえない。だが気配はある。頭上の通路にも注意しつつ進む。
と、上から何か落ちてきた。
避けるとそれは青年の姿をした鬼だった。鬼はずっと唸っている。口を聞けるほどの脳はなさそうだった。
鬼は真正面からただ走って向かってくる。
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
炎刀が鬼の首を跳ねる。一瞬見えたのだがこの鬼、目に陸の数字が刻まれていた。数字に一本線が入っていたが、十二鬼月だったということか。
鬼はボロボロと崩れていった。そこに月城が戻ってきた。
「なんですか、あの鬼の目は…!」
そうか、初めて見るか。
「十二鬼月だ。鬼舞辻直属の配下で、目に数字が刻まれている。今の鬼は数字が消されたように線が入っていたから、恐らくもう十二鬼月ではないのだろう。」
もう片方の目は下弦と書いてあった。だが、あのような鬼が十二鬼月になるだろうか。
「十二鬼月になると、目は崩れないのですか?」
「それはない!」
と同時に頭上の足場が崩れ落ちてきた。俺は咄嗟に月城を抱えてそれを避けた。数メートルに渡って崩れたらしい。向こう側は煙がたっている。
「大事はないか。」
「はい、ありがとうございます。」
月城を降ろすと途端に煙の中から黒い棒のような物が無数に伸びてきた。先端は針のように尖っている。あの若者の言葉が過ぎった。串刺しとはこれのことか。