第5章 造船所の鬼
だがドック周辺に手がかりは無かった。月城の方はどうだろうか。彼女が見に行った弐号ドックへ行くと、月城は地面を見たままじっとしていた。
「どうだ?」
俺の声を聞いて顔を向けた。そして再び地面を見ると屈んで指差す。俺も膝を落としてそこを見た。
大量の血痕だ。ここで襲われた人のものだろう。だがこれは何だ。黒く焼け焦げた跡のようなものが混じっている。
「これは…。」
「微量ですが、焼跡に鉄が混じっているようです。」
「鉄?何故そう思う?」
「……。なんとなく、分かりました。」
「そうか…。」
彼女の勘が鋭いのは承知しているが、これは勘ともまた違うような。まあ今更追及することでもあるまい。
「ならば、製鉄所へ行ってみよう。」
俺たちは敷地の奥にある製鉄所へ向かった。城壁のようにどこまでも続く赤レンガの建物。いくつか高炉が聳え立ち、煙が堪えず出ている。入口に来た時点で分かった。鬼の気配がする。それは月城も感じ取っただろう。
「行くぞ!」
「はい!」
外から見た雰囲気と違い、中は無骨だった。薄暗いが小さな電灯はついていて、鉄骨の足場が天井を行き交い、溶鉱炉の下には溶け出した鉄が溜まり、固まらないように熱してあった。こういった場所に立ち入るのは初めてだ。目新しいな。だが今は鬼を探さねば。歩みを進めていると、先に見つけたのは鬼ではなく残業中の作業員の若者だった。
刀を持って歩く俺の姿に驚いてい腰を抜かしてしまった。
「だ、誰だ!!」
俺は刀を鞘に収める。
「驚かせて申し訳ない!」
近づいて若者を立たせようと手を差し出したが、彼はまだ怯えていた。
「申し訳ありません。猫が迷い込んでしまったので、探しておりました。」
月城が俺の後ろから顔を出して言った。
うむ、なかなかやるな。若者はようやく俺の手を取って立ち上がった。
「猫?猫なんかいたかな…。それに何で刀なんて…。」
「近頃物騒でしたので、この方は用心棒です。」
ああ確かにと若者はやや納得した様子。
「連日、作業員が事故に合っていると聞いているが…」
俺が切り出した途端、若者は頭を抱えた。
「違う!あれは事故じゃない!一人は弐号ドックで圧死。昨日は高炉の傍で倒れていたけど、体中を串刺しにされた痕があった。そんなこと普通ありえない!」