第4章 元町観光
「みなさまはどのようにお呼びするのでしょうか?」
「以前までいた弟子は俺が育手だったので師範と呼んでいたが、隊士に合格してからは煉獄さんと呼ぶようになったな。」
なるほど…。ですが千寿郎さんも煉獄さんで、お父上様も煉獄さん。みなさん煉獄さん。お家で稽古の時は紛らわしそうな…。
「では、杏寿郎さん。でよろしいでしょうか?」
初めてお名前を口に出した。杏寿郎さんは少し照れたご様子だった。
「新鮮だな!」
お名前で呼ぶのはお館様とお父上様ぐらいだそうで。そこに私が入って良かったでしょうか。
「やはり止めた方がいいでしょうか。」
「構わない!慣れるまではこそばゆいがな!」
杏寿郎さんは空き地内の稽古の邪魔にならない場所へ置いた荷物を取りながら言った。
「良い名前ですよね、杏寿郎さん。縁起の良い字を書きますよね。」
私は刀を腰のベルトに通し、水の残ったガラス瓶と空の竹筒を抱えた。杏寿郎さんは竹筒に残った水を飲み干してから、渡してくれた。白く品のある鞘を腰のベルトに通し、昼餉の残りが入った紙袋を持つ。
「ありがとう!強く優しく、人々の助けになるようにという意がこめられているそうだ。」
「素敵ですね。その名の通りの人でいらっしゃる。」
「いや、まだまだ!だがそう有りたいと常に思っている。」
私から見れば既に完成されたような人柄であるのに謙遜される。様々な才能に恵まれ、明るく楽観的でお日様のような人。努力を惜しまず精進される強い心もある。
私にはないものばかりだ。
「月城の名は、どんな由来だ?珍しい名だが。」
家までの僅かな道すがら杏寿郎さんは、どことも言えぬところを見ながら聞いてこられた。私の名の由来…。お母様に聞けばよかった。
「どんな意味だったのでしょうね?聞いたことありませんでした。」
「そうか!ではこの話はお終いにして…」
こうして話がさくさくと切られていくのはよくある。無駄な話がなくて私は好きだが。
「今夜は近くの港で任務があってな。」
「え、この町に鬼が出るのですか!」
「うむ!造船所で連日、作業員が事故に合い亡くなるという情報が入った。」
「まあ…そんなことが。」
「案ずるな!俺が今夜鬼を斬り伏せる!」
杏寿郎さんが行くのであれば確かに大丈夫でしょうね。