第4章 元町観光
掴んだ手を引き上げられ立つと、足が疲労で震えていた。気を抜くとまた座ってしまいそう。
「休憩だ!昼餉にしよう!」
やっと休める。炎柱様はお腹を空かせているだろうか。できるなら食事の前に汗を流したい。
「あの、私は汗を流してきてもよいでしょうか。」
何度と地面に手や足をついて土と仲良くしていたので、私は砂埃にまみれていた。炎柱様は私に稽古をつけながら自分も鍛錬なさっていたが爽やかなお顔。せいぜい見えるのは額の汗ぐらいだ。
「ああ、いいとも!俺もそうしよう!」
「でしたら、近くに銭湯がありますので参りましょうか。」
「うむ!案内頼もう!」
私は一度家に戻らせていただき、身体を洗うスポンジと石鹸、それに二人分の手拭いと着替えのシャツを持ってきた。
「この隊服の中のシャツ、一枚大きいものを持っているのですが炎柱様でも着れるでしょうか?」
採寸を誤ったのかやや大きくて殆ど着ていない物だった。広げて身体に当てさせてもらうと、長さはなんとか足りているように見える。
「よろしければ、お着替えにどうでしょう?」
「!いいのか?有難い!」
汗を流した後で、再び汗の染みたシャツを着るのは気分が悪いですからね。シャツと手拭いを一枚渡して銭湯へ向かった。
私の家はお風呂がない。炊事場や厠も共同。家賃はお陰で安いのだけど。今日のように誰か来るときは不便だわね。
銭湯は家から歩いて数分の距離にある。そこそこに清潔であるし、何より沸かし湯ではなく天然温泉なところが魅力。疲労回復効果に加えて傷の治りも早まる。温泉と聞くと炎柱様も喜んでいらした。銭湯の戸を開け、番台を通り過ぎ、私達は別れた。
昼時なせいか女湯は空いていた。
桶に湯をためて身体を流す。髪も洗ってしまおう。髪結い紐を解いて頭から湯をかぶった。
念入りに洗ってから手拭いでまとめて、身体を石鹸で泡立てたスポンジで洗っていると、壁の向こうの男湯から馴染みの溌剌としたお話し声が聞こえた。他のお客様とお話しされているようだ。なんでも体格について言われたらしく、日々鍛えている話をしていた。聞き耳を立てたつもりはないが、声が大きいので聞こえてしまった。楽しそうで何よりです。それから泡を流して温泉にゆっくり浸かった。