第4章 元町観光
歩いていてもそこまで痛みはない。これなら問題なさそう。
「お陰様で大丈夫です。」
「そうか!良かった!」
来たときより賑わっている屋台の道を抜け、再び空き地に戻ってきた。
炎柱様は到着するなり気持ちよさそうに伸びをなさった。
焔色の髪がふわふわと風に靡く。柔かそう。
「ここは潮風が気持ちいいな!」
風を正面からあびているお姿も凛々しい。ぼんやり眺めていると視線が合った。炎柱様はお日様のような笑顔を向けてくれた。千寿郎さんと同じ。
「どうした?俺の顔に何かついているか?」
あまりにじっと眺めすぎたようで。
私はいいえと首を横に振った。
「お姿が素敵でしたのでつい。失礼いたしました。」
正直に申しましたら炎柱様は照れ笑いしていた。それもまた可愛らしいと思ってしまうあたり、やはり失礼かもしれない。稽古をつけてくださるのだから、集中しなくては。私は一度視線を落とし、小さく深呼吸してから顔を上げた。
少しはやる気があるように見えればいいが。
「よし!始めよう!まずは基礎体力づくりからだ!」
日輪刀を使っての素振り500回、腹筋、屈伸運動がそれぞれ300回、近場の建設途中の建物の骨組みを使った懸垂50回。さらに町の周りを三周走った。
案の定、私は序盤ですでに息が切れた。出来の悪い弟子でしょう、素振りで刀は落とすし、姿勢は崩れるし、懸垂なんて3回おきに落ちた。その度に炎柱様の注意を受けた。何度も何度も、呆れることなく注意してくださった。そしてそれ以上に励ましてくださる。
だからもっと頑張ろうと思えた。
全て終える頃には昼過ぎになってしまった。
最後の走り込みを終えて地面に座り込んでいる私はもう立てない。喉の奥は鉄の味がこびりついて離れない。炎柱様は相変わらず清々しい表情。この方のようになるならば、日々このぐらいの鍛錬しなければ。一人だとどうしても甘えが出てしまい、ここまでこなせなかった。もっと厳しくやらないと…。
「最初の稽古より確実に体力はついてる!よく頑張ったな!お疲れ様!」
炎柱様はあのお日様のような笑顔で私に手を差し出した。
「あ…ありがとうございます。」
その手を取ろうとして気がついた。彼の掌は皮が厚く、潰れたマメの治った痕もあった。どれだけ鍛錬を積んだのだろう。私の掌なんてまだその状態には程遠かった。
