第4章 元町観光
「ちょっと、誰?この青年は。」
女将さんがわざとらしく微笑みながら小声で言った。
「上司です。」
「なーんだ。」
女将さんはすぐつまらなそうに返事するも笑顔になった。
このあたりのお店には外国人がよくくるので、私のような顔の者にも分け隔てなく接してくださる。
「なににいたしましょ?」
「では、支那そばを二杯頼む!」
女将さんの問いに私より先に炎柱様が答えられた。
溌剌したお声に女将さんは微笑んでいた。
「はい。ちょっとお待ち下さいね。」
女将さんは厨房にいるご主人に注文を伝えに言った。
きっと今頃、この方が私の上司であることも伝わっているのでしょう。
「月城はこの店によく来るのか?」
炎柱様の双眸に捕らえられる。
背景が支那そば屋なことがとても新鮮。
「そうですね、何度か来ています。ご主人も女将さんも気持ちの良い方なので。」
「そうだな!」
炎柱様も大抵初めて行く店には最初怪訝な顔をされるのだとか。髪色のせいではあるが、先祖代々同じであることを誇りとされている。大した問題ではないそうだ。
私もその考え方を見習いたい。
「はい、お待たせしました。支那そば二つね。」
女将さんが湯気立つ丼を私達の前に置いた。
ああ、いつものように美味しそう。焼豚を薄く切ったものと、海苔と刻み葱が入った支那そば。
「おぉ、良い香りだ!いただきます!」
炎柱様は箸を取ると麺をとって冷ますことなく啜っていた。そして目を大きく見開く。
「うまい!!」
大きな声が店中に響いた。時が止まったかのように一瞬静まり、他のお客様も女将さんもご主人も皆、炎柱様に注目されていた。そんなこと気にも止めず本人は食べ続けている。
「うまい!」
「あの、」
「うまい!」
「炎柱様。」
「うまい!」
「ええ、美味しいですよね。」
「うまい!!!」
「はい、あの…分かりましたのでお声をもう少し小さくしていただけますか?他のお客様もおりますので。」
「……。すまん。」
静かになった炎柱様をみて女将さんは笑っていた。
「朝から元気があっていいね。宣伝になるからどんどん言ってちょうだい!」
それは外まで聞こえているということですね。
「月城!」
「はいぃっ!」
近くにいるのに声が大きいことと言ったら…。