第4章 元町観光
炎柱様はわざわざ私の前に膝をついて、痛めた足を見てくださった。強いだけでなく優しい人…。
隊服の胸ポケットからハンケチを取り出して、私の足首に巻き固定する。
「これでどうだ?」
少し動かしたくらいでは痛まない。
「痛くありません。ありがとうございます、炎柱先生。」
「先生はよしてくれ。応急処置をしたまでだ。稽古で怪我をさせてしまったのなら、それは俺の責任でもある。」
「そんなとんでもない!私の修行不足です、申し訳ありません。」
炎柱様は膝についた土を払って立ち上がると笑顔を見せた。
なぜかその姿が一瞬だけ父と重なった気がした。
幼い頃、転んで怪我をした時だ。父も同じようにハンケチで血の出たところを縛ってくれた。泣いていた私を元気づけようと笑顔だった。あぁ、懐かしい。
「疲れが溜まっているんじゃないか?睡眠はとれているか?」
炎柱様はなんでもお見通しのようだ。
せっかく来ていただいているのに、申し訳ない。
連日の任務で夜はもちろん討伐。昼間は移動。一日の睡眠は2〜3時間程度。だが他の隊員もそれは同じこと。私の体力が足りないだけだ。
「大丈夫です。」
そうは言ってもお見通しの炎柱様。困り顔でうーんと悩まれてしまった。
「では、朝餉をとってから再開するとしよう!」
きっと気を遣ってくださったのだ。でもお腹も空いたところなのでありがたい。しっかり食べて頑張らないと…!
私の家には何もないので、朝餉はお店に行くことにした。港が近いので少し海の方へ行くと屋台も出ている。
炎柱様は縁日のようだとやや興奮されていた。
「して、君は何を食べる?俺の奢りだから気にせず食べるといい!」
「そ、それは良いのでしょうか…?」
「ん?良いに決まっているだろう、俺は上官なのだから当たり前だ!」
まあ、なんと気前の良い…。同じ歳頃とは思えない程に。
「そうですね、私はあの店の支那そばがいいです。あっさりとした味付けで美味しいんですよ。」
「ほう!ではあの店にしよう!」
私達は暖簾をくぐり、店に入る。実は何度か来ているお店だ。人を連れてくるのは初めてだけれど。
店主がいらっしゃいと挨拶する。厨房を仕切る暖簾から顔を出して私の方を見て、それから炎柱様の顔を見て驚いていた。
配膳を担当する女将さんが席に案内してくれる。