第3章 呪いの藁人形
膝の上で死んだ子供が落ちた。それを踏みつけにし、長い髪の間から常軌を逸した目がこちらを向く。
赦せん!
刀を構え、間を詰めようとした時だ。着物から小さな藁人形を取り出し、胴の藁をひとつまみ引き抜いた。
「フフフ…お前の仲間、今どうなっているだろうねぇ?」
「何!?」
遠くで隊士の断末魔のような声が聞こえた。人形にはかみのようなものが藁と束ねてある。彼と繋がっているのか。
大抵は鬼を消滅させれば血鬼術も消える。早く始末したいところだが、お社の後ろからぞろぞろと子供が数人出てきた。先程俺たちを襲った子供もいる。あの子供たちも操られているのか。
触れられる訳にはいかない。髪の毛一本落とすこともあってはならない。余計な動きはするな。
「さあ、ご飯の時間よ!」
鬼が言うと合図だったかのように子供らが飛びかかってきた。少しも触れるぬように避けて鬼に近づく。
炎の呼吸 参ノ型 気炎万象!
簡単に鬼の首は切れた。が。
「!」
骨や肉ではなく、切ったのは藁だ。
これが本体ではない。相当警戒心の強い奴だ。操られた子供はまだ飛びかかってくる。それも人外の速さだ。
「炎柱様〜!」
月城の声。息を切らしてやってきた。隊士の姿はない。
「彼は無事か!」
「操られて切りかかって来ましたので、拘束いたしました。」
「承知した!こちらは鬼と思しき奴を切ったが藁だった。本体が何処かに隠れている!」
子供らの動きを避けながら辺りを探る。あとはこのお社の中か。
「君には見えるか!!」
月城は攻撃を避けながらも鬼の探知に集中する。あの身のこなし、素晴らしい!
彼女なら必ず見つけられるだろう。答えを何と言おうとも俺は信じる。
「お社の中に!中心にあって動かぬものが鬼です!」
「そうか!承知した!」
獲物が動かないなら簡単だ。
お社の戸を破ると、暗闇の中で妙な気を放つものが中心に置かれていた。鏡だった。奉納されているこれが何故鬼に…。
鏡に日輪刀を突き立てようとした瞬間だ。鏡から煙のようなものが上がる。鬼だ。足はない。目や口もない。形を留めてすらいない。よく見ると煙の中には藁の人形がいくつかある。あの子どもたちのものかもしれん。
「これで終いだ!」
俺は日輪刀で鏡を割った。
お社が揺れるほどの断末魔が響き、鬼は外に飛び出していった。