第3章 呪いの藁人形
「いや、あの子供の攻撃が俺に当たらぬようにやってくれたことだからいい。それより、なぜ子供が攻撃すると思ったんだ?」
不意を突かれたものの、彼女がいなくても反応はできただろう。だが月城はあの子供が豹変するより一瞬早く動いた筈だ。俺の襟を引くには距離があったのだから。
初めて会った任務の時もそうだ。俺より先に動き、剣を正確に軌道に乗せた。
何か判断基準があるのだろう。ぜひ教えてもらいたい!
「なんとなく、ですよ。」
「なんとなくか!勘が鋭いな!」
持って生まれものを教えるのは難しい。仕方がないな。
話しながら辺りに神経を集中させていると、周りを囲むようにして何かが動いた。何かが突然現れては様子を伺っている。
隊士も月城も刀を抜いて警戒した。
ここは一つ彼女の勘に頼ってみるとするか。
「月城、君のそのなんとなくで、この状況をどう読む?」
月城は慎重に周囲を見渡した。
するとこちらに目を向ける。俺よりずっと遠くを見ている。
「小さな足が駆け回った跡があります。」
「跡?」
俺と隊士は足元をみるがこの林の土は枯れ葉や枝の下にある。どこに跡がある?
「向こうまで続いています。」
俺にはよく分からん。隊士に至っては月城を気味悪がっていた。
「じゃ、じゃあさっきの誰かが走り回っているような音は?」
「分かりません。人でも鬼でもないものでした。」
「なんでそこまで分かるんだよ。」
「……。なんとなくです。」
隊士は唖然としていた。気持ちは分かるが、まずは足跡の向かう方へ行くしかあるまい。
そして歩みを進めるほど鬼の気配は強まった。月城の勘が当たっているのだ。
「うっ…。」
隊士が突然足を止めて胸を抑えた。月城が心配して寄り添い、先を行く俺を呼び止めた。
まさか。
俺は走って先に進む。開けた所に出た。そこには小さなお社があった。お社の低い石段には女が座っている…あれは鬼だ。
そしてその足元に子供が数人倒れている。…死んでいる。
鬼が青白い顔を上げた。口から何か垂れている。膝に何か乗っているとは思ったが、それも子供だった。人とは思えぬほどに体が萎れているのは喰ったあとだからだ。
「子供だけが突然消える、元凶はお前か。」
鬼はゆっくり立ち上がる。