第19章 黎明のその先へ【END2】
震える彼女の手を強く握る。
月城の目は迷いに満ちていた。
きっと、心の傷が癒えぬ内に次から次へと傷ついてしまったんだ。
恐れや悲しみの記憶が彼女を縛り付けている。
「月城が来てくれたから、今俺の命はある!」
あの時。
俺が玖ノ型で刀を振り下ろす瞬間、あの鬼の拳は俺の溝内を狙っていた。
それでも防ぐより斬る事を優先した。本当ならあのまま俺の溝内を貫いた拳を月城は代わりに受け止めていた…。あの速度、早々順応できるものではないはずだが、まるで分かっていたかのように彼女は俺の前に出た。
刀を突き立て、それでも足りずに自ら盾になり。
そしてその瞬間、あの鬼は力を緩めた。
「君は俺の命の恩人だ。それだけじゃない、何度も心を救われた。」
自分の心の声を聞くんだ。信じろ月城。
俺や千寿郎と過ごした日々を思い出せ。
あの日過ごした時間は、失われることはない。
「俺が君の家族になる…!」
月城が手を握り返してきた。
俺はもう一度目を合わせて、好きだと伝える。そして。
「まだ、ほんの少しでも、俺に対して気持ちが残っているなら…傍にいてくれ。」
どうか…どうか…。
選んでほしい。
君の意思で、俺を選んでほしい。
彼女はそれでも離れてしまうのではないのかと、本当はとても怖かった。
もしそうなったなら、俺は月城の心を癒やすことはできなかったということ。
それを受け入れなければ。
祈りをこめて彼女の手を握っていたが、月城は俺から目を逸らした。
だめか…。
仕方ないな……。
握った手を離すこともできず、ただ俯いた。
いや、俯いてはだめだ。
すぐに顔を上げると月城の空のような双眸は濡れて今にも涙が溢れてしまいそうだった。
これは参ったな。
「す、すまない。そんな顔しないでくれ…」
拭おうにも涙はまだ流れていない上に、触れるにも失礼な気がして行き場の無い手が宙を泳ぐ。
そんな中、震える声で月城は…。
「私……一緒に居たいです……。だけど…」
決められない。
決めるのが怖い。