第19章 黎明のその先へ【END2】
庭に目を向ける。静かなものだ。風が吹いて、紅葉した葉が舞い落ちる。
だが、こうしている今もどこかで、鬼によって家族を失くし悲しんでいる人たちがいる。
(お前も鬼にならないか?)
思い出すだけで虫酸が走る。
怒りと恐怖で震えそうになる。だがそうしてはいられない。目を閉じて拳を握り、押し込んだ。
「今夜は、兄上の好きなものを食べましょう。」
千寿郎が、そんな俺を見てか隣で微笑みながら言った。
俺の日常は此処にある。大切にしなければ…。
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「…ない…ないないないない………」
独り言を呟きながら坂道を行ったり来たり。
ここは私が双子の鬼と遭遇した場所。
ここで落としたと思われる髪飾りを探しに来たのだけど…。
「…ない!」
ガックリと肩を落とすけど、そもそも時間が経ち過ぎているから、仕方ないと言えばそうだ。
「はぁ〜…」
坂の途中の大岩に腰掛けて空を眺めた。
治療の途中で病院をぬけてきたので、まだ少し呼吸が苦しい。
だけど完治を待っていたら、誰かと会うことになるんじゃないかと思った。
胡蝶さんか…もしかしたら杏寿郎さんとか。それは来てくれると思ってるあたり自意識過剰かな。
だけどあの人はどうしただろう。
主治医伝いで回復に向かっていることは聞いていたけど、大丈夫なのかしら。
岩の上にころんと仰向けに寝転がる。
今日はとても天気がよい。日差しと風が心地良い。
これからどうしよう。
家賃滞納で大家さんが怖くてまだ家にも帰ってない。
だけどそのままにするわけにはいかないし…やっぱり帰ろう…。
岩から降りて坂道を下ろうとした時だった。
「あの…!」
声をかけられた。私の目の前にいた少年からだ。
市松模様の羽織と額に痣がある。
知ってる…。
脳裏に浮かぶのは、最後の言葉を伝える杏寿郎さんの背中と、それを真剣に聞くこの少年だ。
「君は…」
少年はにこやかに微笑む。
「竈門炭治郎です。月城さん…ですよね?」
彼は一人、任務の帰りだという。
私に聞きたいことがあるみたいで、また大岩に並んで腰掛けた。