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桜月夜【鬼滅の刃】

第19章 黎明のその先へ【END2】




千寿郎は隣で正座した。
俺は庭の風景よりも弟の顔を眺めていたかった。
もう二度と見ることが無かったかもしれない。

千寿郎は首を傾げて俺を見た。

「兄上?どうかなさいましたか?」

「いいや、なんでもない。」

ただ微笑み返した。
だがなんだろう、この表しきれない気持ちは。

どうにも愛おしいのは。
次の瞬間には千寿郎を抱きしめていた。

「ど、どうしたんですか?」

「なんだろうな…なんとなくだ!」

抱きしめる腕に力が入る。


「ぐっ、苦しいです…兄上…!」

「おぉ、すまんな!」


千寿郎を解放してやると、大きく深呼吸していた。
呼吸、体温。

生きている証だ。
どれも限りがある、だから尊い。

今回は鬼を討ちそこなった。
上弦の参…手強かった。月城が来なければ俺は死んでいただろう。
ずっと姿を晦ましていた彼女が、なぜあの時に現れたのかは分からない。
そういえば、このことをまだ千寿郎に言ってなかったな。
竈門少年から聞いているだろうか。


「俺は…今回、上弦の参と戦った。」

千寿郎は俺の唐突な語りを真っ直ぐに聞いている。

「はい。戦いがどれだけ激しく、兄上がどれだけ強かったかを炭治郎さんが話してくださいました。」

「…俺は…致命傷を負わされた。それを助けてくれた隊士がいる。その話は聞いたか?」

「…?いえ、炭治郎さんでしょうか?」

きょとんとする千寿郎。やはり聞いていないか。なんとなく竈門少年が気を利かせたのかもしれないと思った。



「月城だ。」


「…!姉上が…来てくれたのですか!?」


「…あぁ。来てくれた!」


俺は月城の勇姿を熱く語った。
呼吸が上手く使えないなりにも、あれだけ戦えるのなら相当鍛錬は積んでいただろう。

今思えば、俺の溝内を狙った鬼の拳を代わりに受けようとしたあれは、まるで最初から分かっているかのような反応だった…。
彼女の特殊な目のせいか。


「それで、姉上は…?無事なんでしょうか…?」

「無事だそうだ。治療の経過は良好らしいが、また病室を飛び出して居なくなったらしい…。」

「え…またですか!」

「あぁ、まただ!」


その「また」の思い出に、自然と俺たちは笑いあった。
あのときはこっそりここにやってきたが、また来てくれるだろうか。


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