第19章 黎明のその先へ【END2】
これができるのとできないのとでは大きな差ができる。
少年は痛みで力んでしまっていたので、額に指を置いてもっと集中するように促す。
「………ぶはっ!はっ……はぁ!」
少年は大きく息を吐いた。
「うむ、止血できたな!」
俺はその場にしゃがみ、乗客の無事を伝えた。
皆、本当によく頑張った!
「君はもう無理せずゆっくり体を休めろ!」
竈門少年は安堵の笑みをもらす。
やっと安心できたのだろう。
「ありがとうございます!」
「うむ!」
それも束の間。体に痺れるような鬼気を感じた瞬間、背後に何かが落下したような大きな音と、地面に衝撃が走る。
振り向けば、巻き上がる土煙の向こうに何かがいる。
いい予感はない。俺は鯉口を切った。
土煙が風で流れていき、その者の姿を見せる。
見た目は若い男だが、目に数字が刻まれていた。
上弦、参。
鬼は俺たちを見据えるなり凄まじい速さで接近し、竈門少年を狙ってきた。
弐ノ型 昇り炎天
振り上げた刀は鬼の腕を二つに裂いた。
鬼は直ぐに俺から距離をとる。
「いい刀だ。」
腕は瞬時に元に戻った。再生が恐ろしく早い。
「なぜ手負いの者から狙うのか理解できない。」
そう言うと、この鬼は自分の話の邪魔になると思い、竈門少年を狙ったのだという。
「俺と君が何の話をする?」
そもそも初対面な上、嫌いだと言うと、鬼は「俺も弱い人間が大嫌いだ」と言う。
それで気が合うとでも思っているのか。
「俺と君とでは物事の価値基準が違うようだ。」
「では、素晴らしい提案をしよう」
まるで俺の話は聞いていない。黙って聞いていれば、鬼にならないかと誘ってきた。
「ならない。」
当たり前だ。鬼になどなるわけがない。
「見れば解る。お前の強さ。柱だな。その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い。」
「俺は炎柱・煉獄杏寿郎だ。」
「俺は猗窩座。」
鬼は猗窩座と名乗った。
随分と饒舌な鬼だ。
まるで友とでも話すように俺に語りかけてくる。
全く鬼らしい考えだ。
強くなりたいために人であることをやめるなんて、するわけがないだろう。
老いや死は、生きているもの全てに与えられる。
それを否定するのは生を否定すること。
そうはなりたくない。