第1章 異人の隊士
「もっとゆっくり大きく吸うんだ。」
少女は返事はしないもののすぐ言った通りに呼吸した。
肺に酸素がたっぷり取り込まれ、少し落ち着いたようだ。
「うむ!大事はないか?」
よく見ると脇腹から出血している。
少女は脇腹を軽く抑えかすり傷だと言っていた。日本語は話せるのだな。
「私は大丈夫です。それより他の隊士の救出を…」
「大丈夫だ、隠が間もなく到着する。」
本当に間もなく数名の隠がやってきた。
事後処理は彼らの方が優れている、任せよう。
ふと、少女はあの木の幹にもたれるようにして息絶えた少年の元へ行った。
その場で屈み、少年の手を足の上で組ませ、やや開いた瞼をそっと閉じてやっていた。それからその白魚のような指を少年の頬に添えた。
俺がそれを見ていたのを気づいてか少女が話してくれた。
「彼は同期でした。決して仲が良かったわけではないのですが、知っている人が逝ってしまうのはいつも悲しいです。」
痛いほどに分かる。初めての任務を思い出した。
同じ最終選別を通った同士が死んでいるのを目にした。その後も。何人も。
「俺がもっと早く着いていれば…申し訳ない。」
柱であっても守れない。不甲斐ない。
「いいえ。」
少女は少年に手を合わせた。
「彼は、私や他の隊士の先陣を切って勇敢に立ち向かっていました。彼の作戦のお陰で鬼たちが麓の村を襲うこともありませんでした。私は…鬼が目の前に現れるまで一人で動けもしなかったのに。」
少女は立ち上がるとこちらを向いた。
少女だと思っていたが、年は俺とそう変わらないかもしれない。
「そして、貴方が来なければ私も死んでいたかもしれません。助けていただきありがとうございました。」
そう言って微笑みながら頭を下げていた。
だがなぜだろう、口は弧を描いているのに目はとても冷たい印象があった。色のせいなのか。
「いや、柱として後輩を守るのは当然のことだ。気にするな!」
「…柱?」
「柱だ!」
「柱とはなんでしょうか?」
「むう!?」
柱が分からないのか。彼女もまた、入隊して間もないのだろう。
「柱を知らぬとは!君、階級は?」
「癸です。」
「そうか!新入りだな!俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ!」
「月城リアネと申します。」