第1章 異人の隊士
春。ある月夜の晩のことだった。
昼間の暖かさが嘘のように辺りは冷え切っている。
俺は急ぎ現場へと向かっていた。次第に冷たい風が頬を突き刺すように感じる。
もうすぐ着く。誰か、一人でも多く無事でいてほしい。
担当地区内の中でも最も北に位置する小さな山、そこに鬼が出ると知らせが入った。既に一般隊士が先行しているが、どうやら苦戦を強いられているらしい。
早く、早くたどり着かなければ。罪なき人を守る為に戦い、敗れ同士が倒れていくのはもう何度と目にした。見慣れるものではない。
麓が見えた。速度を落とすことなく山道を登る。鬼の気配のする方へ。もう道ですら無かった。木々を避け、川を越え、ただひたすらに鬼のいる方へ走り続けた。
「…!」
誰かが倒れている。木の幹に寄りかかった少年だった。
その奥でまだ戦っている音がする。
息がない少年を横目に、俺はさらに進んだ。止まるわけにいかなかった。
すまない。間に合わなかった。もっと早く来ていれば、救えていたかもしれないというのに。
月の光が暗い山の中を照らし出す。
鬼の姿がはっきりと見えた。
それと戦っているのは、少女の隊員だった。
炎の呼吸 壱ノ型 不知火!!
炎刀は鬼の首を跳ねた。
宙を舞う首と、炎の残像。それを見て少女は驚いていた。
さぞ怖かったのだろう。
鬼はすぐに焼けて灰となり消えた。
「怪我はないか!?」
肩で呼吸を乱す少女はまだ状況が飲み込めていないとみた。
なんとも珍しい、稲穂のような髪色に晴れ渡る空のような瞳、雪の如く白い肌。異人だろうか。
「大丈夫か?」
近づいて肩に手を置くと、ようやく俺を視界にいれた。
だがすぐ視線が横にずれた。
後ろにもう一匹いる。振り向き様に日輪刀を構えた。
だが、俺より先に少女が動いた。
まだ鬼は範囲にいないというのに、彼女は刀を構えた。
あの型は水の呼吸だ。彼女が刀を振るうと同時に、鬼が現れた。だが一瞬で首を切った。少々乱雑な技だったが切れた。
俺が鬼の位置を確認するより早く、彼女は動いたのだ。
先刻まで脅えて、固まっていたというのに大したものだ。
俺は刀を鞘にしまい、彼女の元へ近寄った。
また呼吸を乱している。全集中の呼吸の精度は良くなさそうだ。