第19章 黎明のその先へ【END2】
月城に貸すことが多い部屋も調べた。
母上が使っていた鏡台を身支度用に置いてある。それ以外は何も無い。
この鏡の前で髪を梳かす姿を思い出す。
記憶の中の彼女は、眺めていると振り向いて微笑む。
だがここにはいない。あるのは鏡台だけだ。
その鏡に自分の姿を映して見ると、少し疲れた顔に見えた。
これでは千寿郎が心配する。
目閉じて深呼吸をし、笑顔を作る。
「!?」
もう一度目を開けた時、鏡に映る俺は笑顔ではなかった。それどころか片目が潰れて開かず、口から血を流している。
驚いて思わず後ずさりした。
どういうことだ。腕で目を擦り、もう一度見た。見間違いだと思いたかった。
だが鏡に映る俺はまだ血を流したままだ。
更には鬼の気配も強く感じとれる。
間違いない。これは血気術だ。
そう気がついた瞬間、俺は目が覚めた。
そこら中に鬼の気配。
そのはずだ、車内の壁、天井、床すら肉のような弾力のある物体で覆われていて、そこから触手が伸びている。
それは他の眠っている乗客の首に巻きついたので、すぐに刀を抜いて細切れにした。
ボトボトと肉の破片が焼け落ちる。
酷い臭いだ。これはどうやら、列車自体が鬼の胴体で、車内は腹の中といったところか。
周りには他の隊士がいない。彼らはもう起きて戦っているのだと分かる。
「うーん。うたた寝している間にこんな事態になっていようとは!!」
迫り来る触手を次々に斬りながら通路を歩く。
「よもやよもやだ!柱として不甲斐なし。」
俺の行く手を阻む触手が迫りくる。
「穴があったら入りたい!」
視界に入る全ての鬼の体に斬撃を浴びせ、一足飛びで突き進んだ。車体が大きく揺れ動く。
列車の乗客を全員守りながら鬼と戦うならば、俺は守りに徹する方が良いだろう。
突き進むうちに黄色い少年の姿が見えた。
彼が使うのは雷の呼吸か。落雷の如き一閃。その素早い身のこなしで瞬時に複数箇所を斬り刻んでいる。
さらにそばには、竈門妹がいた。
彼女は鬼を相手に戦い、傷を負いながらも乗客を守っている。鬼ならば傷も回復する上に、女子といえど力も凄まじい。
この二人に残りの車両を任せよう。
ならば残る少年たちは…。