第19章 黎明のその先へ【END2】
ふと、気がつくと目の前に父の寝転ぶ後ろ姿があった。
俺はなぜここにいる。何をしに来た?
考えていると、手に刀がかつと当たる。
その瞬間にここにいる理由を思い出した。
柱になった報告をしにきたのだと。
俺はお館様のことや、他の柱のこと、これからどんな柱を目指すのか、とにかく思いつく限りを話した。
だが…
「柱になったからなんだ」
父は……父上はこちらを見ることなく、つまらなそうに呟いた。
俺が柱になればやる気を取り戻してくれるのではと、心の隅で期待していた。
いや、まだなったばかりだから、やはり柱としての成果もあげなければ…。
そうでなければ、炎柱として活躍していた頃の父には遠く及ばない。
父の部屋を辞して、日の当たる縁側を歩いていると、向こうから千寿郎がやってきた。
父はどうだったかと聞いてきた。
認めてもらえたかと、いずれ自分も柱になると認めてもらえるのかと。
千寿郎の望む答えはやれない。
父上は………。
嘘をついても仕方がないので、膝を降り、千寿郎の目を見て話した。
認めてはもらえなかったことを、正直に伝えた。
千寿郎の大きな瞳が濡れようとしていた。だからしっかり腕を掴み、俺はそんなことで挫けたりはしないと伝えた。そして…
「千寿郎。お前は俺とは違う!お前には兄がいる。兄は弟を信じている」
思うように剣術が身に付かないと、自分を責めて心を痛めていることは知っている。
それでも尚励んでいることも俺は分かっている。
大粒の涙を静かに流す弟を抱きしめた。
頑張ろう…頑張って生きていこう!寂しくとも!
それから、気を取り直した千寿郎に稽古をつけてほしいと頼まれたので、庭で指導をした。
俺はこの緩やかに流れる一時が好きだった。
父上も…今はまだ母上が亡くなった悲しみから立ち上がれずにいるが、いつかきっと昔の父上に戻ると信じている。
その日がいつ来ても良いように、この平和な時を、家族を、人々を守りたい。
「肩の力を抜いて」
言いながら千寿郎の肩に手を置く。
「こう?」
「そうだ。」
先程よりよくなったな。
稽古の後は、縁側に座って話した。
俺は任務のこと、千寿郎は家でのこと。
特に変わったことも、大きな出来事もないが、それが幸せだと思う。
ただ…そこに君がいたなら……。