第19章 黎明のその先へ【END2】
恐る恐る燃え盛る桜の木へ近づいた。
美しいが炎は少し怖い。
風向きが途端に変わり、月城は炎に包まれた。
恐れから目をぎゅっと瞑る。
熱く痛いかと思い構えたが、静かで温かいだけ。
ゆっくり目を開けると、やはり炎の中にいた。
激しく燃えているのに音もなく、心地よい温かさ。
その先に彼の姿があった。
何かと戦っている…
動きが速くよく見えないが、業火を纏い戦う彼が痛みと苦しみに耐えながら戦っていることは分かった。
そこへ行きたい…。
駆け出そうとした瞬間、足元の氷が割れた。
吸い込まれるように海に落下していく。
冷たく暗い海へ、ゆっくり沈み、炎が遠ざかっていく。
熱で氷がとけた。だから海へ落ちた。でもこれは夢だから…
このまま身を任せてしまえばいい。
所詮は夢だから…。
全てが夢だから…。
……!
……きて…!
耳の奥なのか、海の底なのか、どこか遠くから声が聞こえる。
呼ばれているのだろうか。
誰に?
無視をしようとしても声は少しずつ大きくなる。
何か叫んでいる。
「起きて!もう誰も失いたくない!」
「!」
大きな声が頭の奥まで響き、月城は現実世界に戻された。
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息が苦しい。体が熱い。汗をかいていて気持ち悪い。
まず深呼吸。
ゆっくり呼吸を整えた。
はぁ…、すぅー……、はぁー…。
暗い部屋を見渡す。女の子が隣で寝ている。
その隣にその子の母親と父親も。
戻ってこられた…!
感覚で分かる。
体に残った記憶で、どうしていたかもすぐ理解できた。
だけどすぐにでも東京に戻らないとあの日には間に合わない。
この家族にはとてもお世話になったから、ちゃんと挨拶したいけれど…。
私は起きて静かに布団を畳み、簡単に手紙を書いて居間の机に切符と共に置いた。
隊服に着替え、髪を結い、刀を持つと気持ちが引き締まった。最後に寝室を覗いて皆の寝顔を目に焼き付ける。
ありがとう…。
よくしてくれて、ありがとう。
もしかしたら戻ってこられないかもしれないけれど…
音を立てないようそっと寝室の襖を閉めた。