第19章 黎明のその先へ【END2】
何かを探しているかのようにどこまでも。
と、陽炎のように視界の一部が霞んだ。
目を凝らしながら歩み進めると、現れたのは一本の桜の木だった。花はつけていない、葉だけの桜の木だが大きくて立派だった。
しかしここは海の上。それも氷の上だ。木なんてあるわけがない。いや、そもそもこの海に氷が張っていることもおかしい。けれど全ては夢なのだから、とだんだんと受け入れられるようになった。
すると受け入れられるようになったからか、桜にみるみる蕾がついて、瞬く間に咲きだし、桜の花が満開の見事な木になった。
見惚れていると風が花びらを少しずつ散らしていく。
それも美しい。風の行く方を見れば桃色が空を流れていく。
不思議なことに花は散っても散ってもまだ咲いていた。
幹に触れてみると少し温かく、まるで人に触れているかのような感覚になった。
どこか懐かしい、感じたことのある温かさ。
(…お母様?……お父様?)
大好きだった両親。
だが幼い頃に感じた両親の温かさともまた違う気がした。
他には…?
思い出そうとすると、浮かぶのは同じ年の頃の青年の姿。
焔色の髪と目が印象的で、凛々しい顔立ちだが眉尻を下げて優しく微笑んでいた。
(…杏寿郎さん?)
その表情から何か特別な感情を感じるが、なぜだがそれがよく思い出せない。
彼の家で鍛錬したこと、一緒に任務へ行ったこと、食事をしたこと、触れられたこと…。思い出せるのにその時の気持ちが思い出せない。
思い出したい。
更に記憶を辿ろうとすると、触れていた木の幹がじんわりと熱をもってきた。
よく見る手のひらを中心にして燃えている。
月城は驚いて手を離してしまった。すると途端に火は燃え広がり木を覆ってしまう。
風で流れる花びらは火の粉となった。
熱い。後退りしてその全容を確認する。
桜の木はすっかり燃えているのに、恐らく炭と化しているのに倒れることはなく、崩れることもなく、燃える木としてそこに在り続けていた。
それはどこか力強く、まるであの人の心のよう…揺るがぬ信念を象徴するように見えた。
炎は大きく燃え盛る。
だが見入ってしまうほど美しかった。
その炎の中にまた彼の姿を見た気がして目を凝らす。
もう少し近づいても大丈夫だろうか……。