第19章 黎明のその先へ【END2】
「…っ!」
その後に胸を締め付けられたような反動がくる。
思わず胸を抑えて身を縮ませた。
通常はたくさん息を吸い込んで、全身の筋肉を酷使するのだが、先程の呼吸は息を全て吐ききった。
酸欠の身体は過酷な状況故に、生きるためのありとあらゆる力を放出する。
通常の呼吸よりも力は出せるが反動も大きい。
まして彼女の弱い肺では何度もできるものではなかった。
だけれど、何故だかどんな手を使ってでも強くならなければならない。そんな気にさせられた。
月城は毎日鍛錬を続けた。
刀を振る速さも以前より増した。瞬発力もついた。
だが心はまだ曖昧で、居候させてくれる一家との思い出だけが鮮明に重ねられていく。
「ちょっとー!運行中止やて!無限列車!」
紗江が駅員から聞いた情報だった。噂では列車に乗っていた乗員乗客に行方不明者が続出したためだとか。
予定していた日までまだ間があるものの、このまま運行中止が続く場合は払い戻しになるそうだ。
「列車に乗って行方不明になるってどういう状況?」
「知らん。」
夫婦の話し声を聞きながらもう一度切符を眺めた。
すると、今度は無限の文字が夢限に変わったように見えて目を疑った。
「……??」
切符の表裏を見たり、くるくると回しながら見たりした。
だが文字は無限と書かれている。
「……?」
不思議だとは思ったが切符は財布にしまった。
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その日また、夢を見た。
ここが夢の世界であると自覚できる夢。
今回の場所はいつもの港の桟橋。
それが夢だと気がついたのは、暖かい地域なのに海が凍っていたからだ。
氷は透明で、その下に魚が泳いでいるのが見える。
もしかしてこの氷の上を歩くことができるのでは…。
恐る恐る足を踏み出して見ると、亀裂も入らず丈夫そうだった。足に体重を移しても問題ない。
海の上を歩くなんて夢でしかできない。
そう思うともう一歩も簡単に踏み出せた。
両足が氷上に立つ。
わざと足を滑らせようとしてみるが、意外と滑らなかった。
何度かシューと試したが滑らないので諦めた。
海の上を沖に向かって歩いていく。
目印がないので真っ直ぐかどうかは感覚だ。
時々下を見ていると、様々な魚が氷の下で煌めいている。
どこまでも。どこまでも歩いた。