第19章 黎明のその先へ【END2】
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秋風漂う季節。
日常的な会話は可能になった月城。
居候先の夫婦の手伝いをしながら合間に鍛錬を重ねる日々を過ごしていた。
なぜ鍛えるのかと問われてもそれは答えられなかった。なんとなくそうしなければいけない、漠然とした理由しかなかった。
曖昧になった記憶が戻るようにと、港の桟橋へは毎日通った。家族の墓参りも毎週欠かさなかった。
そんなある日、一家は旅行がてら東京に行ってみないかと言いだした。
行けば何かわかるかもしれないと。
遠出することには皆乗り気で、特に紗江はそうと決まれば観光地の下調べを楽しげにしていた。
列車は夜行で行くのが手頃だが、混むこともあるため早めに切符を買うほうがいいらしい。紗江は事前に四人分の切符を購入した。
机の上に出たままになっていた切符を手に取って眺める。
無限神戸と書いてある。
記憶の中の切符には無限東京と書いてある。
発車地点の違いであって同じ列車だろう。
と、紗江がいつの間にか隣にいて、月城の手元を覗き込んでいた。
目が合うと彼女は微笑み
「駅でお弁当買ってこうね。」
と言った。
そして切符を一つ月城に渡す。
その時、一瞬だけ列車の中の風景が見えた気がした。
座席、優しい風合いの照明、揺れる車内。
記憶にあるから鮮明に見えただけ、そう思った。
だがこの切符を受け取った日、不思議な夢を見た。
綺麗に敷き詰められている石畳が燃えていて、熱いが心地は悪くなく、どこか安心できる場所にいる夢だった。
空は煙で少し曇っているものの、合間から青空が見えた。
しかし何をするわけでもなく、夢はその景色を見せるのみだった。
何か大切なことを思い出さなければいけない、そんな気がしていた。
月城はそれから人目を盗んで刀で鍛錬をするようになった。硝子で出来た刃は鋭い。芯には陽をたっぷり浴びた玉鋼が使われている。
柄を握り、精神を集中させる。
ふと、夢の中の炎の思い出した。
(炎の呼吸……)
息を全て吐ききり、地を蹴り、バネのような反動をつけて先にある木に一閃をあびせる。大の男の胴回りほどある木だ。
まるで凍ったかのように木は動かなかったが、少しすると雪が崩れるように切り口から滑り倒れた。