第19章 黎明のその先へ【END2】
「うるさいな。リアネなら帰ってないぞ。」
なぜ彼女を呼び捨てて呼ぶのか気になったが、お隣なら交流があったとしても不思議ではない。そう言い聞かせて冷静さを保つ。
「すまない。郵便受けが空だったので帰っているかと思ってな。」
隣の部屋の男は廊下に出てきた。
俺より上背のある異人だった。
「大家さんが、汚えからって回収したんだよ。」
「他人の郵便物をか?」
「預かってるだけだから、帰ってきたら渡すんだろう。それより家賃滞納しすぎてるらしいが、あんた何か知ってるか?」
この男も何も知らないか……。
「いや、分からない。ここなら帰っているかと思って来てみたが……」
結局いなかった。
何かあったのだろうか…。何も危険な目に合っていなければよいのだが。
俺は、この隣人に挨拶をしてから帰ろうと階段を降りた。床の軋む音がどこか虚しさを感じさせる。
廊下に出ると、向こうから腰の曲がった老人が一人、ゆっくりと歩いてきた。
「もしや、貴方が大家さんか?」
老人は頷くと、こっちへ来るようにと手招きした。
黙ってついていくと、居間のような部屋へ案内された。
どうやら一階の奥は大家さんの居住空間のようだ。
老人は収納棚から手紙の束を取り出して見せてきた。
これは俺が送ったもの。大家さんは二階の騒ぎに気づいてこれを…。
「この…送り主の煉獄さんっていうのは君の事かな?」
「はい!その手紙は俺が月城に送ったものです。」
「彼女しばらく見ないな…どこにいったんだか…」
「……」
大家さんは小言のようにぶつぶつと言っていた。
あまり機嫌が良いとは言えない雰囲気だな。
「この手紙は帰ってきたら渡しておくから…」
あまり郵便受けに無理矢理詰めないでほしいと言われた…。
「申し訳ない…!」
詰めたのは郵便屋さんだがな。
「全く、いつ帰ってくるんだろうなぁ。家賃を滞納されて困ってるんだよ。」
「それについても申し訳ない!いくら払えばいいでしょう?」
一先ずその場で家賃は払ってしまった。
元々安い家賃なのでそこまで大金にはならなかった。
彼女が戻るまでは俺が払おう。