第19章 黎明のその先へ【END2】
暇を貰った日に、また手紙を書いた。
日課になりつつある。書いている時は多少なりと落ち着く気がした。
―月城
どうしているだろうか。元気なのか?
随分と経ったと思うが…その後君の気持ちはどうだろか。
月城は優しいから、気を遣わせてしまうかもしれないが、俺としては君が幸せならどんな形に収まろうといいと思っている。
それが俺のもとであれば尚嬉しいが、そうでなくても良い。
傷つきやすい君だから、悲しまずにすむ場所を見つけたなら、それは俺にとっても嬉しいことだ。―
ここまで書いて手が止まった。
己の弱気な心が情けない。
これではもう諦めているみたいではないか。こんなもの読まれた日には帰ってはきてくれないだろう。
紙を丸めて塵箱に捨て、もう少し前向きなことを書いて封をした。
宛名を書き、それを眺めて考える。
今日も直接置きに行こうかを。
ついでにうまい支那そば屋にでも寄ってみるか。
歩いて最寄りの駅へ行き、列車にのり、馬車に乗り継ぎ、時間をかけてゆっくりと向かった。
この道を、俺の家まで通ったんだな。
稽古をしていた日々が懐しい。
あの頃は彼女も必至になっていて、よく弱音も吐かずに倒れるまで頑張っていたものだ。
千寿郎と月城が二人で元町まで出向いた話では、千寿郎は途中で寝てしまって、おぶってもらったと言っていたな。
この辺の道ではすでに寝ていたかな。
だんだんと港町の賑わいが聞こえてきた。
風は潮の香りを連れてくる。
俺は途中で馬車を降りて少し歩いた。
すれ違う人々には異国の者もいる。
帝都とも雰囲気が違う。かといって下町の賑わいともまた違う。
彼女の家の前で足を止めた。
つい二週間くらい前にも来たんだがな。
帰っていてくれと心で祈った。
郵便受けの方を見る。
前回のように郵便物がはみ出して居なかった。
まさかと思い、俺は慌ただしく戸を開けて内廊下を駆けて、階段を駆け上がり、彼女の部屋まで急いだ。
「月城!居るのか!」
何度か名前を呼び、戸を叩いた。しかし出てくる気配がない。
もう一声呼びかけようとしたとき、隣の部屋の戸が開いた。
大きな男が一人、部屋から顔を出す。