第19章 黎明のその先へ【END2】
母と弟の葬式を思い出す。あの喪失感、二度と感じたくはなかった。なのに、父も失って、二度喪失感で埋め尽くされた私は生きることを諦めたくなった。
でも、意志が弱くて良かった。
杏寿郎さんや千寿郎さんに出会えて、幸せな時間を過ごせた。
二人には、幸せであって欲しいと思ってる。
理想通りでなくとも、せめて悲しいことが起きないようにしたい。
少しでもいいから。
杏寿郎さんは誰にも必要な存在…ここで失くすのは嫌だ。
私が命を使うならこの時が絶好の機会だと思った。
とにかく走ろう。
自分の身体に戻るために……。
彼が逝かずにすむ未来のために。
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また、季節が変わる。
盆を過ぎてから夜の気温がぐっと下がった。
鬼の情報があり、とある小さな町を見回っていた時にふと思う。
このまま秋が過ぎて、冬が過ぎて、それでも月城は帰ってこないのではないかと。
先日、俺は自分の足で手紙を置きに行った。
彼女の家は複数人が共同で暮らしている小さな家で、外には部屋数分の郵便受けがあった。
月城の部屋の郵便受けは山のように入ってるようだ。
手紙がはみ出している。
全部俺の送ったものかと思うと虚しかった。
それでも新しくしたためた手紙を隙間に差し込んだ。
帰って来ないかもしれない…だが帰ってくるかもしれない。
まだ信じたい気持ちがある、だから諦めない。
しかし、あの様子だと家にもずっと帰っていなさそうだな…。
まだ実家にいるのだろうか。
あれから情報はない。元気かどうかだけでも知れたなら…。
「……ら。………炎柱!?」
「…ん?」
側にいた少年の隊士に呼ばれていたようだ。
さて、なんの話だったか。
「すまない、考え事をしてしまった。もう一度話してくれるか?」
少年の隊士は「はい」と何事もなかったように返事して、報告を続けた。
「承知した!引き続き頼む!!」
「はい!」
彼が持ち場に戻る後ろ姿を見送る。
それがあの日去っていく月城の背と重なって見えた。
引き止めれば良かったのか。
追いかけて、あの時にあの場で、彼女の気持ちが晴れるまで話を聞いておけば良かったのかもしれない。
なぜそうしなかった。
なぜその時はそれがいいと思ったのだろう。