第19章 黎明のその先へ【END2】
突然景色が変わった。
足を止めようとしたら躓いた。
夜明け前だ。先方は森があって、後ろには土手があって列車が横転していた。
乗客たちが慌てて避難をしている。
手伝おうとしたが、見えない壁があるようで私はそこまで近づけなかった。
干渉はできないし、動ける範囲も決まっている。
この列車…もしかして…。
先頭車両のあるところまで行く、無限列車と書かれていた。
これだ。和尚様から教えてもらった列車。
まもなくして隠が数人やってきて、乗客の救助にあたっていた。
山の合間から陽光が差す。
朝だ。
と、隠が数名慌ただしく線路の先へと走っていく。
それを追っていくと、少年の叫び声が聞こえた。
籠もっていてよく聞こえないけれど、きっと震えて泣きながら叫んでいる。
「煉獄さんの勝ちだーーーー!!」
あっ…
声のする方には、泣き叫ぶ少年と、頭が猪で身体は人間の者と、膝をついてを血を流す杏寿郎さんがいた。
その瞬間、あの少年の先に鬼がいること、その鬼と戦ったのは杏寿郎さんで深傷を負わされたこと、終わりが近いことを理解した。
声にもならない。
顔を見に行きたいけど怖くて行けなかった。
むしろ後ずさってしまった。
泣き叫んだ少年は杏寿郎さんの前に行って膝をついた。
何か話している。
聞こえなかったけど、最後の言葉を伝えているのは分かった。
そして、杏寿郎さんは首を傾けて動かなくなった。
いつも綺麗な羽織は汚れていて、血溜まりが大きく広がっていった。
心の数字もゆっくりと消えていった。
あぁ、声にならない。
悲しみが大きすぎる。
あの少年も猪の人も泣いている。
杏寿郎さんは彼らを救った。
乗客も全員救った。
本当に凄い人…。
あまりに凄くてとても遠い存在……。
だけど逝ってしまうには早いでしょう。
私は深く息を吸って、また走った。
炎柱を…失いたくない。
もう誰かが死ぬところなんて見たくない。