第19章 黎明のその先へ【END2】
私が帰りたい理由は何なのだろう。
それすら分からない。
せめて一つ、小さくても灯りでもあれば…。
灯り…
何故か思い浮かんだのは杏寿郎さんだった。
太陽のようにいつも照らしてくれた。
道を示してくれた。
どうしてか一緒にいると、あの人の優しさも強さも苦しくて耐えられなくなったのに、もう会えないと思うと寂しい。
本当に私は…何がしたいのだろう。
堪らず、その場で蹲った。
…自分を見失ったから、こんなところにいるんだ。
きっと血鬼術のせいだけじゃない。
最初から迷っているから帰れないんだ。
それなら、この状況を受け入れて
もうここで静かに、考えることもやめて…。
そう思うと酷く悲しい気持ちになった。
何も見えないから、涙も見えないし感じないけれど。
散々逃げた挙句の果てに、誰も知らない場所で一人きりになった。
私が求めたのは今なのだろうか。
いつも逃げてきた。苦しくなったら逃げて、逃げて、その度に大切に思う人を失くした。
…いや、失くしてから大切だった事に気がついた。
いつもなら逃げた先で誰かが助けてくれたけど、今度はそうはいかない。
誰かを頼ることはできない。
それでも誰かが居なくなってしまうのかな…。
杏寿郎さん、千寿郎さん…どうしよう、二人に何かあったら。
もう一つの煉獄家のお葬式風景を思い出す。
杏寿郎さん、列車事故で亡くなってしまっていた。
あれと少しだけ違うことが、私のいた世界で起きるなら…どうなるだろう。
狭間の世界、時間はあべこべ。
時間を戻って確かめることはできるのかな…。
どうして亡くなってしまったのか。亡くならずにすむ道へはどう進むのか。
私はふらふらと立ち上がって走り出した。
道なんかない。探すしかない。
もう失うところなんて見たくない…。
息が苦しくなっても走り続けた。
靴の音や息遣いも聞こえない闇の中。
時間の感覚も分からない。
動いているのかすら疑ってしまう。
それでも走った。
心が折れそうだった。
その時。