第19章 黎明のその先へ【END2】
「おネエちゃん、名前は?」
父親が問う。
「月城リアネと申します。」
リアネはゆっくり頭を下げた。
「ばりばりの日本語やんか。」
「しかも訛ってないなあ?」
夫婦は驚き顔を見合わせる。
少女はどうだと言わんばかりに何故か誇らしげだった。
「月城さん、どこから来たん?」
今度は母親が問う。
月城は暫し黙って考えたが、分からないと首を横に振った。
記憶がないわけではない。時系列が分からなくなってた。
「記憶がないんかなぁ…」
夫婦はまた顔を見合わせた。
彼女のためにどうすることがよいのか、よく考えてやらねばならなかった。
話はできてもあまり答えることはできない月城。
ただ幼い頃の出来事ほどしっかり答えられた。
兵庫で生まれ育ったこと、家は貿易商を営んでいたこと。父は遠くへ仕事に行き、母は亡くなっていること。継母とはうまくいっていないこと。
また、時系列に関係のないことも答えられた。
刀は鬼を狩るためのものだとか、着ていた服は隊服だとか。
「お姉ちゃん鬼退治してたの!?」
「うーん……」
何をしていたかまでは曖昧だ。
ぼんやりと覚えているが言葉にできない。
それでも、少しでも話せるようになって良かったと、この家の母親は微笑んだ。
「複雑なんよねきっと。ええよ、好きなだけいて。ねぇ?おっとう?」
「ん!?そうだな!」
「ね!この人もこう言ってるし!」
月城は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、紗江さん。」
紗江と呼ばれた母親は驚き、頬を染めた。
口の聞けない間、一方的に語りかけてきたこともちゃんと分かっていたのかもしれない。
紗江は目を潤ませた。
夫がその肩を、叩いて慰める。
月城は三つ指をついて彼の方へ体を向けると
「もう暫し、お世話になります。正一さん。」
と、深く頭を下げた。
正一と呼ばれた父親も驚いていた。
「ちゃんとわかっとったんかいな。」