第19章 黎明のその先へ【END2】
昼食は、この家の主人が持ち帰った魚の刺し身や焼き魚だった。
漁師なのでいつも色んな海の幸を持って帰ってくる。新鮮でとても美味しい。
「えーまたお魚ー!?」
「文句言わんで食べなさい!」
「うう!」
少女はとてもつまらなさそうに、箸を取った。
隣でそれを見守る女性は、その姿をぼんやりと見つめている。
けれども黙々と食べ進むところを見て笑みを零していた。
「ガイジンさんも、たくさん食べ!お腹空いたやろ?」
母親の言葉に女性は青色の目を細めて微笑んだ。
反応はする。
話さないが…。
名前も分からないこの女性を、ここの家族は何ヶ月も匿い続けた。
彼女は来る日も来る日も、竹刀を振って、町を走り、身体を鍛えていた。
雨の日も、風の日も、暑い日も。
毎日。毎日。
なんのためにそこまでするのかは、誰にも分からなかった。
けれど何か意味があるのだろうと、誰も止めることもしなかった。
ある時、近所でひったくりが起きて近くにいたその女性はたちまち捕らえてしまったそうだ。
ひったくりの被害者だった老婦はその時の様子を興奮気味に話して回った。
大の男を投げ飛ばし、腕を背中に捻りあげたのだと。
女性は背が高かく、その分筋肉量もある。
毎日鍛えていることもあり細腕の割に力もあった。
「ガイジンさんすごーい!」
「大したもんやなあ!」
多くの人々が彼女の周りに集まり称えた。
「お姉ちゃん!」
匿い先の少女は抱きついた。
とても懐いていた。
「すごいなぁ!私もお姉ちゃんみたいになりたいなあ。」
女性は不思議がって少女を見下ろしていたが、頭を撫でて微笑むと…
「ありがとう」
と一言だけ。
初めて声を発した瞬間だった。
ほんの少し、心が動いたようだった。
「お姉ちゃんが喋った!!おっかぁ!!おっかぁ!」
少女は驚きのあまり、母親を呼びながら家の方へ走っていってしまった。
父も母も呼び寄せて、少女は熱く語った。
居間のちゃぶ台を囲んで。
「ほんまに話したん?ガイジンさん?」
母親は恐る恐る聞くと、女性は頷くだけだった。
ありがとうくらいなら話せる外国人はたくさんいる。彼女もそうなのではと思った。