第19章 黎明のその先へ【END2】
桟橋でぼんやりと海を眺めた。
今日の波は穏やかだけど、海の向こうに暗い雲があるから、やがて雨が降るでしょうね。
ほら、光った。雷を連れてきている。
と、一瞬だけ、大雨になったような気がした。
なんだろう。まだ降ってないのに、同じような景色で、でもすごい大雨。
桟橋の先に立って水面を見下ろす。
穏やか…私が映ってる。
見ていると吸い込まれそうだった。
このまま落ちてしまおうか。
どうなるかな。
目を閉じて
ゆっくり、ゆっくり
力を抜いて
引力に全てを任せて
ゆっくりと前に…
(お姉ちゃん!)
「あっ!」
女の子の声がして踏みとどまった。
だけど振り返っても女の子なんていない。
お姉ちゃんなんて、私を呼ぶ女の子は知り合いにいたかな?
覚えがない…。
ただ静かな波の音は、やたらと鮮明に聞こえる気がした。
******
「お姉ちゃん!遊ぼうよ〜!」
少女は不満いっぱいに呼びかける。
その先にいる女性は真剣な面持ちで竹刀を振っていた。
風邪が治ってすぐ、何故か女性は人の居ないところで刀を振るようになった。
相変わらずろくな会話もできないが、黙々と刀を振るのでそのうち近所の子供たちが集まってくるようになった。
刀一振りできれいに広範囲の草が切れるので、子供たちは面白がった。
ただ、話題になると警察の耳に入ったようで。
帯刀は違反なので没収すると言われたが、そこはなんとか周りのものが誤魔化して事なきを得た。
そして竹刀を持たされた。
彼女の一日は毎日同じで、早朝、起きると走って海まで行き、朝食前には戻ってくる。
食事の後は部屋を掃除して、終わったら竹刀を振ったり、身体を鍛える運動をしていた。
「ガイジンさん、兵隊やったんかなあ?」
「ガイジンの兵隊が変な日本刀持つかいな。今どきは鉄砲やろ鉄砲。」
「そうよねぇ…」
女性を匿う夫婦は不思議に彼女を眺める。
もうすぐ昼だ。
「ガイジンさーん!ご飯にしようや〜」
「しよや〜」
母親に合わせて少女が続く。
呼び声を聞くと女性の動きは止まって、元の姿勢に戻り二人の方へ駆け寄った。