第19章 黎明のその先へ【END2】
「月城は故郷で休んでいるんだろう。帰ってくるまではそっとしておこう。」
「はい…」
返事はするものの、声は悲しみを帯びていた。
千寿郎もあれだけ慕っていたからな。
突然、連絡が途絶え、消息も断ったとなると、非日常に放り出されたような気分だろう。
ただでさえ、俺も千寿郎には苦労をかけている身。
「母上への報告が終わったら、鰻でも食べに行くか!」
「いいんですか!行きます!」
明るく返してくれるが、本当はいろいろなものを抑え込んでいる。言わなくても分かる。
ただ、少しでも気が紛れてくれたなら。
今だけでも…
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地元の港は聞き慣れた波の音がして、馴染みの風が吹く。
だけどここは少しだけ違う。
そう感じるのは、ここが私の育った場所ではないからだ。
何故か人にだけ干渉できない私は無賃で列車に乗ってここまできた。
父の船が止まる港へ。
ところが仰天。
そこにはもう一人、私がいた。
しかも知らない人と結婚していた。
(誰よこの人…)
おまけにお腹が大きい。子供まで出来てる。
全く知らない相手と結婚してまもなく子供が生まれる状況に少し気分が悪くなった。
彼女と自分を重ねてはいけない…
あれは私であって私じゃないのだから。
ただ羨ましいのは
父が生きていたということ。
父を見て、本当にここは私の知らない世界なんだと信じることができた。
母は既に亡くなっているようだったが、継母はいた。
私と継母は仲が良くて、父共々、孫の誕生を楽しみにしている。
幸せそうだった。
あのとき、私が家を飛び出さなければ。
飛び出したとして、すぐ帰っていれば。
未来はこっちだったのかな。
この知らない世界を認識してから分かったことがもう一つ。
時間があべこべだった。
時が真っ直ぐ刻まれていないというか、行ったり来たりする。
これがどうやら、私が進む方向で変わるというのが後で分かったのだけど、世界は同じままで、私が元にいた場所には帰れなかった。
どうやって帰れるんだろう。
もしかして、このまま帰れない?
でも来られたのだから、帰れると思うのだけど…。
どうしようかな……。