第19章 黎明のその先へ【END2】
暫くして医者が部屋から出てきた。
「どうでしたか?」
「ガイジンさん治る?」
矢継ぎ早に尋ねる二人に対し、医者はなんとも、と首を横に振った。
気管支に炎症を起こしているため、具合によっては悪化するとも。彼女の体力次第らしい。
結核の疑いもあり、部屋はよく換気して、人の出入りを減らすようにと言われた。
咳止めと熱冷ましの薬を処方され診察は終わる。
「ガイジンさんの様子は私が看るから、あーちゃんは治るまで部屋に入ったらあかんよ?」
「はーい……」
この母親はそれからもまめに看病を行った。
熱は薬のおかげもあり翌日には下がり、起きて食事がとれるまで回復した。
結核の疑いもあるなら危ないだろうと、父親は言ったが「病気の人を見捨てられるわけないやん!阿呆!」と一蹴。責任感が強く逞しい妻を尊敬した。
「ガイジンさん、ご飯やで。食べれる?」
更に翌日、前日と同じように粥をもって部屋に入ると、彼女はすぐに起き上がって申し訳なさそうに微笑んだ。
母親は食べさせようとレンゲを口元まで運ぶが、彼女が手を差し出したので器ごと渡した。
自分で食べられるようだった。
「だいぶ咳も減ったね?良かったねえ。」
そう言って微笑む母親に、女性は微笑み返す。
「食べたら器は置いててええからね。あとで取りに来るからね。」
母親はそう言うと部屋を出た。
体力は回復しつつあるものの会話がほとんどできない。恐らく意思疎通はできているが、全く言葉を返さず、ほとんどぼんやりしている彼女のことを心配に思っていた。
どの船に置いていかれたのか、名前はなんというのか。何も聞けていない。
とにかく元気になったら桟橋へ散歩に行って、他の船の人に聞いてみることにした。