第19章 黎明のその先へ【END2】
「家に連れて来ようとしたんよ?でもガイジンさん、踏ん張りが強いねん。」
「踏ん張り?」
「足で踏ん張ってるから引いても動かんの。」
「そんなに!?」
父親は驚くとうーんと悩んだ。今夜の雨は強まる上に気温も下がると思っていたからだ。
「心配やなぁ。でも子供じゃあらへんし、自分で雨宿りくらいできるよなあ?」
「うーん…」
そうは思っても心配だった。
それほどぼーっとしている人だったから。
「おっとう、明日の朝一で様子見て?」
「そうやな。」
その夜、雨風は強かった。
気温も予想通り低かった。明日で本当に間に合うか不安でもあった。
翌朝、父親はすぐに港へ向かった。この父親は漁師で、海はもともと朝早くに出入りしている。
故に現在は午前4時である。まだ日の出前だ。夜中の内に雨は上がったようだが、激しい雨だったのは確かで、そこら中に大きな水溜りができていた。
暗がりの中、妻と娘が昨日行った桟橋へ。途中に見覚えのある番傘が転がっていて、不安に煽られた父親は駆け出した。
桟橋で、女性が倒れていた。
「あっ!大丈夫か!?」
泥に塗れ、黄金色の髪が雨で濡れて顔に張り付いていた。
前髪をかき分けて顔を覗きこむと、少し赤い顔をして、小さく呼吸している。額に手を当ててみればすぐにでも分かる高熱だった。
えらいこっちゃ!と父親は女性を担いでまた家に戻った。
家につくと女性の看病は妻に任せて、父親は仕事に出かけた。
「あーあー。言わんこっちゃないわぁ。」
言いながらも、服を脱がせて身体を拭いてやり、着流しを着せてやり(大きいので着れるものが無かった)、温かい布団に女性を寝かせた。
「ゴホッ…ゼェー…ゲホッゲホッ…ゼェーヒュー…」
「ガイジンさん…変な咳が出るねー…」
変なとは、何か重い病に繋がるようなということだ。
幸いかかりつけ医は近所に住んでいるので娘に医者を呼んできてもらった。
「ガイジンさん、病気なん?」
医者が診ている間に母と子は部屋の外で待っていた。
咳が止まらないとなると流行りの結核である可能性もあり、そうなれば子供を近づけさせるわけにはいかない。
「ただの風邪やといいけどね…」