第19章 黎明のその先へ【END2】
女性はやっと少女を視界にいれた。
「わぁ〜…」
目が空のように青い。その美しさに少女は感嘆の声を漏らした。
「ガイジンさん、言葉が分からないかしら…」
動こうとしない様子をみて母親が言うと、少女は女性の腕を力いっぱい引っ張った。
だが全く動かない。母親も加わって手をひこうとしたが。
まず彼女の青い目に見入っていた。
「すごいね!目が海みたい!」
「お空にも見えるよ〜」
楽しげに話す二人とは真逆に、彼女はまだぼんやりとしていた。
心ここにあらずとはまさに彼女の今の様子のことだろう。
青い双眸が少女と母親を交互に見た。
「行くところがないなら、家においでよ。」
母親は優しく微笑んでいた。
この母親は女性のことを、置いていかれたガイジンだと思っていた。
貿易船がよく停まるので、西洋からやってきて、そのまま取り残されたのではないかと。
稀にそんなことがあるとも聞く。
ごくごく稀だが。
母親と少女は、この女性の両脇に立つと手を引いてうちへ連れて帰ろうとした。
だが、女性は動こうとしなかった。
ビクともしない。見た目の割に足の踏ん張りが強い。
「全然動かんね!」
「ほんまね…!ここに居たい理由があるのね…。でもねガイジンさん、もうすぐ雨が降るんよ?風邪をひいてしまうよ?」
母親は顔を覗きこんで訴えかけるが、女性は海の方を見ているばかりで聞いているのかわからない。
「これはあかんね。あーちゃん、ガイジンさんに傘持ってきてあげよう?」
「うん!」
諦めて母親と、あーちゃんと呼ばれた少女は一度家に戻り、傘を持ってまた海に戻った。
少女が女性に「どーぞ」と傘を渡すと、それにはにこりと微笑んで受け取った。
「ガイジンさんにこにこしとうよ!」
「そう!良かった〜。ガイジンさん、無理せんようにね!」
女性は振り向いてまたにこりと微笑むと会釈した。
反応が見れたので親子は喜んだが、その夜には本降りの雨となってまた心配になった。
二人は夕食の席で昼間のことを父親に話すと…。
「あのおネエちゃんまだあんなとこ立っとう!?」
あの女性が海で立ち尽くすのを見ていたのはこの父親が最初だった。それを家族に話すと、なぜ困っているかもしれないのに話を聞かないのかと母親は怒った。