第19章 黎明のその先へ【END2】
「君はきっと現し世の層の合間にいるんじゃないかな?心と身体が離れてしまうと、そういうことが稀に起きてしまうそうだよ。」
「心と身体が…」
それなら間違いなく血鬼術の影響だ。
心が今の私なら、身体はどこかで止まっている。
逆もしかり。
どこにいるんだろう…。
「どうやって戻れるか分かるかい?」
「分からないわ…。」
どうしたらいいのか…。
俯くとまた潮の香りがする。
元町の…違う。うちの船が停まる港の匂い。
ああ、分かった。あそこにいるんだ…。
行ってみよう。
戻るにもしても戻らないにしても、地元に帰れば少し落ち着いて良い考えもできるかもしれない。
「ありがとうございました、和尚様。私、そろそろ行きます。」
「そうかい。気をつけて行くんだよ。」
和尚様に別れを告げて、私は境内を小走りで抜けて階段を降りた。
そういえば和尚様にはどうして私が見えたのかしら?
和尚様だから、かしら?
まあいっか。
町を駆け抜け、とにかく駅へ向かった。
夜行列車に間に合うといいけど。
*********
貿易船が多く停泊する港は、代わる代わる大小様々な船が来ては忙しなく荷の積み下ろしをしている。
春はまだもう少し先だというのに、皆袖を捲り汗を流して働いていた。
その暑苦しさと真逆で海は穏やかだ。
海鳥の囀りは美しく楽しげで、風もすっきりと乾いている。
時折強く吹く一陣が港に佇む少女の髪を揺らした。
少女の見つめる先には、遠くの海をぼんやり眺める金髪の女性が立っていた。
この女性は数日前に突然現れてからずっと、同じ場所に立っていた。港の隅にある桟橋の先に。
女性を見つめる少女のもとに別の女性が歩み寄る。
母親だった。
彼女も、この桟橋に佇む者を心配で見に来た。
「ねえ、そろそろ家に来ない?今夜は雨が振りそうよ?」
この少女と母親は、毎日彼女へ声をかけていた。
じっと動かず、飲まず食わずで顔色もどんどん悪くなる彼女を見兼ねて、家に呼ぼうとしているのだが全く反応を見せず参っているところだ。
「お姉ちゃん、行こうよ!」
ついに少女は女性の手をとって声をかけた。
触れたのは初めてだった。