第2章 一宿一飯
適当な野菜を切って味噌汁の鍋に入れる。あとは何を作ろうか考えていると、異国のお料理が食べてみたいと千寿郎さんは仰られた。でもお口にあう保証はない。お父上様の反応が心配であることを伝えるとまた悩んでしまった。
「今度来たときにお作りしますから、その時味見をお願いできますか?それでよろしければ、お父上様にも振舞いましょう。」
それで今回は納得していただいた。
それから卵を焼いたものと、茹でたお豆腐を出汁につけたものと、お漬物はあるものを用意した。
食卓に並べ終わる頃、お父上様がいらっしゃった。
千寿郎さんが驚いているのを見ると、珍しいことなのでしょう。
「おはようございます。」
座って頭を下げるも返事はなく、静かに座られた。
「お前が用意したのか?」
迫力のある低い声に背筋がしゃんとなる。
「はい。一宿一飯の御礼でございます。」
「ふん、当たり前だ。」
お父上様は箸をとると先にお味噌汁の椀に口をつけた。
いつもと違う味にお気づきなようで、口を離してしばらく椀の中を見ていた。それからもう一口。とくに何も仰られることはなかった。
「月城さん、いただきます。」
千寿郎さんもお箸をとったので私も続いた。
お父上様と同じようにお味噌汁から口にしていた。
「わぁ…美味しい…。」
千寿郎さんはお日様に当たっているかのようなほっこりとした表情をしていた。
実は上京して、育手の元で修行をするなかで他の子どもたちと当番制で炊事をしたが、好評だったのはこの味噌汁だけだった。
それ以外は味が薄いと言われ、あまり好まれなかった。
「お口に合ってよかったです。」
これならきっとお父上様の二日酔いにも染みるでしょう。
相変わらず会話はないですが、黙々と食べるお姿にとても心が温まった。
「熱っ…!」
千寿郎さんが熱々のお豆腐を口に入れられず、出汁の中に落として恥ずかしそうにした。
食卓に散った汁を布巾で拭いている間に、私は千寿郎さんの器を取って、散蓮華に乗せた一口分の豆腐に息をかけて冷ました。
「さぁ、今度は大丈夫ですよ。」
私が散蓮華を持って待っていると、千寿郎さんはどうするべきかと困ってしまっていたが、意を決したように口を開けてくれたのでそっと運んだ。
もぐもぐもぐ。
「わ…優しい味で美味しいです!」