第19章 黎明のその先へ【END2】
そういえば、煉獄家のお庭は桜の木がたくさんあって…春になったらお花見できるかな、なんて思ったこともあった。
お弁当をたくさん作って、千寿郎さんも一緒で…。
大きな声でうまい!っていうのを聞いて。
でも、もう居ないのね…。
私は桜の木の下で蹲った。
膝を抱えて、顔を腕に埋める。
蹲っていてもしょうがないことは分かっている。
いくら悲しんでも死んだ人は戻ってこないことも分かっている。
それに…彼はもう別な人と………。
おかしなほど、涙がひいて出なくなった。
もう関係ないのだから、悩まなくていい。
考えなくていい。
無理に生きようともしなくていい。
だって仕方がないじゃない。
私は自分から離れたんだから。
どうしたら良いかわからなかったし、答えはまだ出ていない。
それなのに…
とても今後悔している。
私はいつも逃げてばかり……。
涙は出ないのに心は苦しかった。
痛くて潰れそうだった。
それでも潰れないし気を失うこともないのがもどかしい。
ただ目を閉じて痛みに身を任せた。
あぁ、なぜかな。目を瞑ると潮の香りがするの。
海辺にいるような風と香りを感じる。
「こんなところで、風邪をひいてしまうよ?」
「…?」
不意に声をかけられて、顔をあげると辺は真っ暗だった。
もう夜…そんなにここにいたのだろうか…。
私に声をかけて来たのは和尚様だった。
「あ…ご無沙汰しております。和尚様。」
私は立ち上がると和尚様に向かってお辞儀する。が。
「はて、前に会いましたか?」
「はい…昨年ですが、座禅をさせてもらいに参りました。杏寿郎さんと、千寿郎さんと一緒に。」
あれっきりだから、覚えていないかもしれないわね。
だが和尚様は私と面識はないときっぱり言い切った。私のような金髪と青い目が座禅をしていたら忘れないはずだとも。
彼はどうしてそんなことを言うのだろう…。