第19章 黎明のその先へ【END2】
それに、どれくらい私は意識がなかったのだろう。
あまり時間は経っていないと思っていたけど、彼がお嫁さんをもらっているということは、相当な時間が過ぎて私は忘れられたのだろうか。
…それもいいかな。
御焼香だけでもしたいところだけど、私が現れるのは迷惑かもしれない。
だから見ないふりをされたのかもしれない。
せめてもと、遠くから手を合わせた。
どんな最後だったのかしら…。
きっと勇ましく、最後まで素晴らしい方だったに違いない。
遺影は凛々しくて、少し微笑んでいた。
見ると涙が溢れそうになる。
もう立ち去ろうとした時、和尚様とすれ違った。
以前に杏寿郎さんと千寿郎とで座禅に行ったことを思い出した。
初めて座禅する私の反応に二人共笑っていたっけ。
懐かしいな…。
ついこの間のことなんだけど。
思い出してまた涙がじんわりと溢れた。
油断すると声を上げて泣いてしまいそうなので、手で口元を抑えながら廊下を歩いていると、急ぎ足の誰かとすれ違う。
「あ、すみません。」
目の前が涙でよく見えず、ぶつかりそうだったので咄嗟に謝ったが、かすることもなくすれ違った。
それが少し違和感に感じた。
屋敷を出てまた歩き出す。
この道を何度も杏寿郎さんと歩いた。
二つ聞こえた足音も懐しい。
だけどまだ違和感がある。
どうしてだろう。
何かが少し違う気がする。
途中あの和尚様のお寺があって、なんとなく階段を登り境内へ行く。
静かで落ち着く。空気も違う気がする。
敷地内をゆっくりと歩いた。
和尚様がお留守のせいもあり本堂は閉まっていた。
本堂の周りを一周してみようと裏手にまわってみると、とても立派な桜の木が見事な花を咲かせていた。
桜が咲くには早い気もするけど、そんな時期なのかしら。
とても美しい桜の木。
何か力が貰えそうな気がして触れてみると、頭がビリビリと痛んで手を離した。
一瞬だったけれど、少し怖かった。
何かを思い出させようとしてくるように感じる。
不思議な桜。
ふと、杏寿郎さんの笑顔が鮮明に脳裏に描かれた。